オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない



 ブブブブブ、ブブブブブ――。
 アイスクリームに舌鼓を打って店を出ようとしたところで、マナーモードに設定していた月子の携帯が振動した。
「あ! お母さんだ! ……すみません、ちょっと外で電話をしてきます」
 月子は携帯を掴むと、足早に一人店の外に出ていった。
「一郎、家の皆にも土産に買って帰ろう。皆は何がいいか分かるか?」
「分かるよ!」
 月子が席を外した隙に、俺は三郎を注文カウンターに伴い、一家の土産用にアイスクリームを注文した。
「お持ち帰りのお時間はどれくらいですか? 三十分のドライアイスまでが無料となっております」
「一時間分頼む」
「かしこまりました」
 ここから月子のアパートまでなら二十分とかからないのだが、安心料として余裕をもったドライアイスを購入した。これで万が一、どこかに寄ったとしてもアイスが溶ける心配をしないで済む。
「すみません、お待たせしました」
 そうして支払いを済ませ、梱包した商品を受け取ったところで、電話を終えた月子が戻ってきた。
「ねーちゃん、母ちゃんなんだって?」
「うん、状況を説明したら、お母さんこっちに向かうって言って聞かなくて。大丈夫って言ったんだけど……」
「えー? 僕全然平気なのに」
「うん。だけどお母さんちょうど隣駅にいて、すぐ来てくれる事になったから、ここでお母さんを待とう」
 なんと、月子の母親がここに来るという。
「それからお母さんにも伝えたんだけど、お母さんが来てくれるなら、お姉ちゃんは一度会社に戻ろうと思うんだ。だから三郎はお母さんが来たら、お母さんと帰ってね」
「うん、分かった!」
 まさか、月子が会社に戻ると言い出すとは思わなかった。
「……月子、それならば俺も社に戻るから、一緒に車に乗っていくといい」
 俺は敢えて牧村からの伝言には触れず、こんなふうに返した。
 怪我をしている三郎と母親をアパートへ送り届けてやるべきかとも考えたが、三郎は腕の骨折以外は問題なく元気だ。
 老医師も、腕への衝撃は避けて、普段通りの生活をして構わないと言っていた。
 それにこの店は駅に程近く、アパートの最寄り駅まで一路線で行ける。未だ時間も、帰宅ラッシュには重ならない。だから三郎には母親と共に、電車で帰ってもらおう。
「ねーちゃん、それならもう行って大丈夫だよ! 隣駅からならすぐに母ちゃんも来るし、この店が待ち合わせ場所に決まってるんだから、僕ここで一人で待てるよ」
 すると月子の返事よりも前に、三郎が声を上げた。
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