オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

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「まず今日は? 恋人関係とはいえ、その弟の怪我にわざわざ駆け付けてくれたのはどうしてですか?」
「牧村さんから月子が中央病院に向かったと聞いて、真っ先に中央病院のアクセスの悪さが思い浮んだ。三郎の怪我の詳細も分からなかった。俺が行けば役に立てるのではないかと思った。なにより三郎と、そして月子が心配で居ても立ってもいられず、気付けば駆け付けていた」
「……どうして明彦さんは、そんなにうちに、よくしてくれるんですか? 休みの日も、これまで三回のデートをしました。だけど最初のデートも、二回目のデートも、今度こそは二人きりでと思っていた先週のデートまで、急遽私が三つ子の世話をする事になってしまって……。なのに明彦さんは嫌な顔をするどころか、率先して三つ子の相手を買って出てくれる。私、申し訳なくて……」
 続く月子の言葉は、少しの驚きを伴って俺の胸を熱くさせる。月子もまた、俺と二人きりの時間を望んでくれていた……!
「月子、今の『どうして』への答えはとても簡単だ。俺は月子が好きだ。だから月子とのデートを楽しみにしていた。けれどそこに月子の弟が加わったからと言って、残念に思うことはない。何故なら月子が大切にする家族は、俺にとってもまた大切な存在だからだ。そんな一郎達と率先して交流するのは俺にとって自然な事だ」
 ……語った言葉に嘘はない。
 実際、三つ子の存在を残念には思った事は一度もない。けれどデートの終わりがけに、今度は二人きりでと、そんな望みを抱いていたのもまた事実。
「なら、もらいすぎなくらい、うちに与えてくれるのはどうしてですか? デートの費用はもちろん、毎回多すぎる量のお土産まで持たせてくれる。うちが裕福じゃないから、気を遣わせてしまっていますか?」
 助手席から俺を見上げる月子の目に、薄く涙が浮かんでいた。
 涙の膜は光を複雑に反射させる。それは輝石にだって勝るとも劣らない澄んだ煌き。
 月子の瞳の美しさに、俺は思わず息を呑んだ。
「……馬鹿を言うな。月子の家庭環境を考えて立ち回った事など一度としてない。あるとすれば、もっと自分本位な下心だ。たとえば土産に関しては、家に帰って開けた時、月子が再び俺と過ごした時間を思い出してくれたらいいと、そんな思いもある。だが土産を買っている時、俺の胸にはもっと単純な思いしか浮かんでいない。これを見て、月子は笑うだろうか? 喜ぶだろうか? そんなふうに俺は、いつだって君の笑顔だけを願ってやまない」
「……明彦さん」
 眦からホロリと零れ落ちた雫。
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