オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

11


 俺は唇で、その雫を掬い取る。月子の涙は舌に、蕩けるように甘い。
 けれど俺は知っている。月子の唇は、もっともっと甘い……。
「月子」
 唇の表層だけ、そっと触れ合わせるように啄んだ。
「……私、いつも思っているんです。こんなに素敵な明彦さんと、一時心を通わせて、幸せすぎる時間をもらって……。私はきっと、この愛だけで一生生きていけます」
 月子は泣き笑いみたいに、クシャリと笑って言った。
 しかし俺は、月子が告げた刹那的な台詞に、内心で大きな衝撃を受けていた。
 ……月子は俺の愛を一時の物と思っているのか?
「だけど人っていうのは、欲張りでいけませんね……」
 ここで月子は俺からスッと目線を外し、小さな声で呟いた。聞こえるか聞こえないかの声で囁かれた言葉は、俺に聞かせる意図ではなく、月子自身が自らを律しようとする戒めのように感じた。
 俺は、高ぶる思いを抑えるようにグッと両の拳を握り込み、口を開いた。
「……月子、俺を見損なうな。一時などと、そんなのはあり得ん。俺が愛する女は一生涯、月子だけだ」
 俯いていた月子が、ゆっくりと顔を上げる。
 俺と月子の視線が絡む。
 美しいその瞳に、俺以外の男を映す事など許さない。仮にそんな事態となれば、俺は持ちうる力の全てでもって、その男を排除する。
「月子、俺は一時で逃がしてなどやらない。永遠に、俺の元から逃がさない。月子の生涯の伴侶は俺で、俺はその座を他の誰にだろうが譲らん!」
 眦から美しい煌きが、ホロホロ、ホロホロと後から後から堰切ったように零れ出る。
 そうして頬を伝ったそれは、顎で再び珠を結んでポタリ、ポタリと落ちる。
「月子……」
 吸い寄せられるように、舌先で顎から頬、目尻までを舐め上げた。
「……私、片親です。家も裕福じゃない。大狼の家の、なにより明彦さんのためになりません」
「見くびるなよ月子、生家の威光がなければ結ばれないハリボテの評価なら、俺の方から捨ててやる。それから月子を嫁に向かえる事で、万が一、大狼の筋に悪し様に言う者があれば、俺は迷わずに運野の姓を名乗る。そんなつまらん家ならば、俺の方がごめんだ」
 大きく見開かれた月子の瞳。その目が、溢れる涙と共に零れ落ちてしまうのではないかと、俺は本気で心配になった。
「……とはいえ父はもちろんの事、叔父や伯母、想像しうる誰もが、そんな卑小な事を言うとはとても思え、っ!!」
 隣から、勢いよく胸に飛び込んで来た月子を腕に抱き留める。
「明彦さん、愛してます。そして心から、貴方という人を尊敬します」
「月子……!」
 月子の言葉は痺れるように甘美な響きで、俺の胸を熱く震わせる。
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