ハイスペックなイケメン部長はオタク女子に夢中(完)
26.営業の倉本さん

北見が帰る際に、年樹や白石に釘を指したのか、あやめは何も聞かれること無く、閉店時間まで客を饗した。肉体的にも精神的にも疲労困憊なあやめは、翌日祖母と温泉へと思っていたが、祖母の都合が悪く、その日一泊だけで帰ることにした。何か言いたそうな竜二も、恭子から言われているのか何も聞いてこず、妙に居心地がわるかった。電車に揺られ、ぼーっとしながら、昨日の北見の告白が夢だったらいいのに…とあやめは思った。北見のようなイケメンに好きと言ってもらって、心が動かないわけではない。ただ、あやめは、どうして自分なのか理解できなかった。少し時間を下さいと答えたが、時間をもらって考えても、あやめの頭は混乱するばかりだった。

週が明けて、仕事が始まり、通常業務をこなしながら、あやめの頭の中は北見のことでいっぱいだった。北見にあったらどんな顔をすれば良いのか、答えが出ないまま悶々としていたが、予想外に会社で北見に会うことはなかった。いつもは仕事が終わると、急いで自宅に帰り、大好きなイラストを描いていたのに、ここ数日は、イラストも全く手に付かない。まっすぐ自宅に帰る気になれず、あやめはブラブラとウインドウショッピングをしながら、どうしたものか…と考えていた。現実逃避をしながら雑貨屋の前でぼーっと食器を見ていると、

「吉田さん?」と突然声をかけられた。あやめが振り返ると、倉本が「社長」と一緒に心配そうに見ていた。あやめは、

「く、倉本さん!」と驚きのあまり、大きな声を出してしまった。倉本はキレイに笑って

「ごめんね。突然。前々から話したいと思ってたんだけど、中々機会がなくて、たまたま見かけたから、思わず声かけちゃった。」と言った。あやめは、あー、やっぱり素敵だなー、この人は、と思いながら

「私もずっと倉本さんとお話してみたいと思ってたんです。」とあやめが言うと、倉本は驚いた顔で、

「ホントに?嬉しい。」と言った。隣の「社長」が、

「杏奈、オレちょっとあっち見てくるから、良かったら二人でお茶でもしてきたら?」と言った。倉本が驚いたように「社長」を見ている姿に、あやめは

「あ、大丈夫です。倉本さん、今度一緒にランチしませんか?」と言った。倉本は満面の笑みで振り返ると、

「そうだね。明日はどう?」と言った。あやめが思い切り頷くと、倉本は嬉しそうに、

「じゃぁまた明日、連絡するね。」と言って、「社長」と一緒に手を振って行ってしまった。小さく手を振って二人の後ろ姿を見送りながら、あやめは素敵なカップルだなーと思った。あんなイケメン相手でも全然引けを取らず、自然体で居られる倉本さんが羨ましい。リア充か!とこの間オタク仲間たちが叫んでいたのを思い出し笑いをして、あやめは帰路についた。

翌日の昼、あやめは約束通り倉本とランチをした。

「コンペの時からずっと話してみたいと思ってたんだ。」と言われ、あやめは驚いた。イラストのことを色々聞かれ、倉本はあやめのイラストにすごく興味を持ってくれたようだった。予想外に質問攻めにされ、あやめは驚いたが、倉本はあやめの想像通り素敵な人だった。

「やっぱり倉本さんは、私の想像通りの人でした。」とあやめが言うと、倉本は不思議そうな顔をして、

「ホントに?私ちょっと、質問し過ぎて引かれたらどうしようかと思ってたんだけど。」と言った。あやめは、

「確かに、こんなにイラストに興味持ってくれるとは思ってませんでしたけど。でも、やっぱり倉本さんは素敵です。」と言った。倉本は

「あー、こんなことならもっと早く声かければ良かった。あ、もう時間だね。ねぇ、良かったら連絡先教えて?私もっと吉田さんの話色々聞きたいし、良かったら、今度一緒に飲みに行かない?」と言った。あやめは、

「良いんですか?嬉しいです。」と思いっきり笑顔になった。倉本は

「今晩はちょっと厳しいけど…明日の晩は?金曜だし。私も何とか早めに仕事片付けるからさ。」と言った。あやめは嬉しくなって大きく頷いたが、ふと、「社長」の存在が気になった。

「でも、金曜の夜なんて、デートじゃないんですか?」とあやめが聞くと、倉本は一瞬呆けた顔をしてから赤面し、

「全然大丈夫。心配しないで。」と幸せそうに笑った。倉本をこんな幸せそうな笑顔にする「社長」はやっぱりすごいな…とあやめは思った。
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