ハイスペックなイケメン部長はオタク女子に夢中(完)
25.突然の告白?
店に戻ると、北見はそのまま庭へ出て着物姿の年配の男性のところへ向かって行った。あやめは、その後ろ姿を見送って、土間で使い終わった茶碗を集めると、店にいた二人の外国人観光客に、お菓子の説明をした。中庭でお茶と一緒に食べられるシステムを紹介すると、そうすると答えたので、一緒にお菓子を選び、菓子器に乗せて、お抹茶券を持って二人を中庭へ案内した。ベンチに座ってもらい、あやめはアルバイトの着物を着た女性スタッフに、お抹茶券を渡すと、何故か先程と同じようにお抹茶が入ったお茶碗とポットと茶筅を一緒にアルバイトの女性が持ってきた。
「先生が、あやめさんに点ててもらって下さいとおっしゃいました。」と言われ、年樹を探すと、奥のベンチで別の客の相手をしていた。あやめはお盆毎受け取って、二人の目の前で説明しながらお茶を点てた。二人はキレイに泡立っていくお抹茶をパシャパシャと写真を撮り、美味しいと言って喜んで帰っていった。店先まで見送り、土間へ戻ると、年樹が寄ってきた。
「あやめさん、英語も出来るなんて知らなかったよ。」と言われ、
「出来るって程じゃないんですけど、子供の頃にアメリカに住んでいたことがあるので、普通に話すくらいなら何とか。」と答えた。年樹は
「あやめさんに点ててもらいたいって言ってる人が居るんだけど、お願いできる?」といたずらっぽく言った。あやめは、
「私にですか?」と聞き返すと、
「そう。ご指名なんだ。指名料でももらっとこうか?」と年樹は笑った。あやめも笑いながら
「そんなのもらえるような腕はありませんけど。どちらですか?」と答えると、
「一番奥。よろしくね。」と言って、あやめの肩をポンと叩き、年樹は中庭へ出ていった。一番奥?と思いながら奥の席に目をやると、着物を着た年配の男性と、客人の着物を着た女性、北見が座っていた。あやめは、どういうこと?と思いながらも、他の客の接待をはじめた年樹に聞き返すことも出来ず、仕方なく奥のベンチへ向かった。
「失礼します。」と声をかけると、年配の男性が上機嫌に
「あぁ、悪いね、急に呼び出して。」と言った。あやめは
「いえ。」と答えると、
「一服点ててもらえるかい?」と言った。あやめは
「はい。かしこまりました。」と頭を下げて、お茶を点てる準備をした。
「雅也とはいつから付き合っているんだい?」と突然聞かれ、あやめは思わず手を止めて、北見を見た。北見は
「オレは付き合ってるなんて一言も言ってないよ。」と男性に言った。男性は
「そうなのか?でも、さっきのお前の話は彼女のことだろう?」と言った。さっきの話ってなんだ?と思いながらも、あやめは手を動かした。
「まだ本人に、ちゃんと伝えてないんだ。少しそっとしておいてくれないか?」と北見が言った。何の話だろう?と思いながら、お茶を点て、男性に差し出すと、
「ありがとう。あやめさんは、誰かお付き合いしてる人がいるのかい?」と聞かれた。あやめは、何で急にそんな話になるんだ?と思いながら
「いえ。」と答えると、
「お父さん、もういい加減にしてあげたら。雅也もあやめさんも困っているわ。」と女性がいった。お父さん…?ってことはこの二人は親子なの?どういうこと?と思って北見を見ると、
「ごめんなさいね。急に。私は雅也の母です。」と女性が言った。あやめは驚きながら、
「えっ、北見部長のお母様…?いつもお世話になっております。」と頭を下げた。女性は、
「雅也、こんな風に彼女を追い込むのはやめなさい。きちんと二人で話しなさい。」と北見に言うと、北見は
「オレは別に追い込んだりしてないよ。」と言ったが、北見の母は少し怒った様子で年配の男性を連れて席を立った。あやめは状況がイマイチ理解できず、
「あの…話が見えないのですが、お祖父様には何をお話になったんですか?」と北見に聞いた。北見は大きく息をついて、
「話すから、オレにも一服お願いできる?」と言った。あやめは、
「かしこまりました。」とお茶の準備を始めた。
「初めて会った時、キレイな人だなと思ったんだ。」と話し始めた北見に、誰のことだろう?と思いながら、お茶碗にお湯を入れ、一度捨てた。
「真面目に仕事してるみたいで、上司の指示にも的確に先読みして動いてて、あー頭の回転速いんだなーこの人って。でも、全然笑わないからさ。何とか笑わせようと必死で話しかけた。」全然笑わない?誰のこと?思いながら、白布でキレイに拭き、茶碗に抹茶を入れた。
「やっと笑ったと思ったら想像以上に可愛くて、でもやっぱり中々笑ってくれなくてさ。どうやって近づこうかと思ってたら、コンペに出てくれるって聞いて、チャンスだと思ったんだ。」コンペ?え?倉本さんのコト言ってるのかな?と思いながら、倉本さんって普段笑わないのかな?と不確かな記憶を辿りながら、そんな風には思えず不思議に思いながら、お湯を注いだ。
「電車であった時は、本当に驚いたよ。会社と全然雰囲気違って、すごいおしゃれだし、確信が持てないまま声かけたら、すごく嫌そうな顔してたよね。」え?これって、私の話?と驚いて手を止め、顔を上げると、嬉しそうな顔で北見が見ていた。あやめは、戸惑いながら、中途半端に混ぜたお茶を思い出し、急いできちんと点てた。あやめが手を動かし始めると、
「でも、話しかけたらちゃんと答えてくれて。着物姿みせてって言ったら嫌ですって即答されて、どうもあんまり好感は持たれてない気はしたけど、反応が面白くってさ。必死に話しかけたよ。」あやめは茶筅を置いて、北見にお茶を出した。北見は茶碗を受け取って、「いただきます」と言って、一口啜り、茶碗を持ったまま話を続けた。
「スーパーで会った時は、運命を感じたな。相変わらず吉田さんは迷惑そうな顔してたけどね。煮魚作るって聞いて、本気で食べたいと思った。ま、断られたけど。」手持ち無沙汰になったあやめは、そういえば、そんなこともあったな…と思い出しながら、茶さじを拭いて、袱紗をたたみ直した。
「ここに初めてきた日も驚いたな。叔父に呼びつけられて、見合いの話を突っぱねながら連れてこられた店で、年樹と嬉しそうな顔で話してるの見て、苛ついた。中村さんにも笑顔で話してるのに、オレには全然懐かないのが悔しくてさ。テキパキとお茶菓子を準備したり、次に必要なものや段取りを考えてパッパと進めてる姿に、やっぱりきっちり仕事が出来る賢い人なんだなって感心した。帰りの車で話しかけたら、何でも正直に答えてくれて。あの日、嫌われてるわけじゃないんだってやっとわかったよ。」あやめは、確かに嫌いという感覚はなかったなーと思った。
「コンペの日の衝撃はすごかったな。吉田さんがどんな作品を作るのか、興味はあったけど、正直それほど期待はしてなかった。なのに、あのイラストだ。そんな武器どこに隠してたんだよって、思ったよ。」と北見は笑った。あやめは、
「武器って…。私のイラストは単なる趣味の範疇を出ません。」と口にした。北見は
「確かに、今はそうかもしれない。でも、吉田さんのイラストとあのセンスは、デザイン企画の人間にとっては脅威以外の何物でもないよ。」と言った。あやめが首を傾げると、
「仕事もしっかり出来るのに、普段は光る才能を隠してて、気になって仕方なかった。スキがないのかと思ったら、打ち上げで気がついたら楽しく酔っぱらってて…心配して見てたら、いつの間にか爆睡してるし。」あやめは赤面して、
「その節は大変ご迷惑をおかけしました。」と謝った。
「家に連れ帰ったら少しは意識してくれるのかと思ったら、全然でさ。がっくりしながら、無理やり腕の中に閉じ込めたら、全然抵抗しないし。あまりに抱き心地が良くて、いつの間にか安心して寝ちゃって…起きたらもぬけの殻だし。オレがどれだけ落ち込んだか知らないでしょ?」
「ちゃんと置き手紙はしました。」とあやめが言うと、北見はクスッと笑い、
「あの詫び状ね。どうやって距離を縮めようかと考えたけど、中々いい策が見つからなくて、そうしてる間に、叔父が勝手に動き出してて、祖父や母にまで呼び出しを食らった。叔母に良い人を紹介するからって連れてこられた店先に、着物姿の吉田さんがいたんだ。」それがさっきの状況だな、と冷静に他人事のように考えていたあやめは
「キレイに着物を着て、外国人と親しげに話している吉田さんを見て、まだこんな才能を隠していたのか。一体何者なんだって。見惚れながら考えてた。」と言われ、
「私には才能なんて何もありませんよ。」とあやめは言った。北見は
「そう言うだろうと思ったけど、オレからしたら、イラストがかけることも、着物が着られることも、こうやってお茶が点てられることも、英語が喋れることも、立派な才能だよ。」といった。あやめが少し考えると、北見は茶碗に残っていたお茶をズズっと飲んで、
「ごちそうさま。」とあやめに渡した。あやめは茶碗を受取って、袂から和三盆の包を出した。北見は不思議そうな顔で受け取ると、
「冷めてしまうと苦味が強くないですか?」とあやめが言った。北見は包を開けて口に含んでから、
「こういう気配りが自然に出来るところも、好き。」とあやめの顔を見て笑った。あやめはあまりにもストレートに好きと言われ、赤面して視線を反らした。北見は
「吉田さんが好きだ。付き合って欲しい。返事は急がなくて良いから、オレと付き合うこと、少し考えてみてくれないか?」と言った。あやめは突然の告白に、戸惑いしかなく、
「…少し時間を下さい。」と答えることしかできなかった。
店に戻ると、北見はそのまま庭へ出て着物姿の年配の男性のところへ向かって行った。あやめは、その後ろ姿を見送って、土間で使い終わった茶碗を集めると、店にいた二人の外国人観光客に、お菓子の説明をした。中庭でお茶と一緒に食べられるシステムを紹介すると、そうすると答えたので、一緒にお菓子を選び、菓子器に乗せて、お抹茶券を持って二人を中庭へ案内した。ベンチに座ってもらい、あやめはアルバイトの着物を着た女性スタッフに、お抹茶券を渡すと、何故か先程と同じようにお抹茶が入ったお茶碗とポットと茶筅を一緒にアルバイトの女性が持ってきた。
「先生が、あやめさんに点ててもらって下さいとおっしゃいました。」と言われ、年樹を探すと、奥のベンチで別の客の相手をしていた。あやめはお盆毎受け取って、二人の目の前で説明しながらお茶を点てた。二人はキレイに泡立っていくお抹茶をパシャパシャと写真を撮り、美味しいと言って喜んで帰っていった。店先まで見送り、土間へ戻ると、年樹が寄ってきた。
「あやめさん、英語も出来るなんて知らなかったよ。」と言われ、
「出来るって程じゃないんですけど、子供の頃にアメリカに住んでいたことがあるので、普通に話すくらいなら何とか。」と答えた。年樹は
「あやめさんに点ててもらいたいって言ってる人が居るんだけど、お願いできる?」といたずらっぽく言った。あやめは、
「私にですか?」と聞き返すと、
「そう。ご指名なんだ。指名料でももらっとこうか?」と年樹は笑った。あやめも笑いながら
「そんなのもらえるような腕はありませんけど。どちらですか?」と答えると、
「一番奥。よろしくね。」と言って、あやめの肩をポンと叩き、年樹は中庭へ出ていった。一番奥?と思いながら奥の席に目をやると、着物を着た年配の男性と、客人の着物を着た女性、北見が座っていた。あやめは、どういうこと?と思いながらも、他の客の接待をはじめた年樹に聞き返すことも出来ず、仕方なく奥のベンチへ向かった。
「失礼します。」と声をかけると、年配の男性が上機嫌に
「あぁ、悪いね、急に呼び出して。」と言った。あやめは
「いえ。」と答えると、
「一服点ててもらえるかい?」と言った。あやめは
「はい。かしこまりました。」と頭を下げて、お茶を点てる準備をした。
「雅也とはいつから付き合っているんだい?」と突然聞かれ、あやめは思わず手を止めて、北見を見た。北見は
「オレは付き合ってるなんて一言も言ってないよ。」と男性に言った。男性は
「そうなのか?でも、さっきのお前の話は彼女のことだろう?」と言った。さっきの話ってなんだ?と思いながらも、あやめは手を動かした。
「まだ本人に、ちゃんと伝えてないんだ。少しそっとしておいてくれないか?」と北見が言った。何の話だろう?と思いながら、お茶を点て、男性に差し出すと、
「ありがとう。あやめさんは、誰かお付き合いしてる人がいるのかい?」と聞かれた。あやめは、何で急にそんな話になるんだ?と思いながら
「いえ。」と答えると、
「お父さん、もういい加減にしてあげたら。雅也もあやめさんも困っているわ。」と女性がいった。お父さん…?ってことはこの二人は親子なの?どういうこと?と思って北見を見ると、
「ごめんなさいね。急に。私は雅也の母です。」と女性が言った。あやめは驚きながら、
「えっ、北見部長のお母様…?いつもお世話になっております。」と頭を下げた。女性は、
「雅也、こんな風に彼女を追い込むのはやめなさい。きちんと二人で話しなさい。」と北見に言うと、北見は
「オレは別に追い込んだりしてないよ。」と言ったが、北見の母は少し怒った様子で年配の男性を連れて席を立った。あやめは状況がイマイチ理解できず、
「あの…話が見えないのですが、お祖父様には何をお話になったんですか?」と北見に聞いた。北見は大きく息をついて、
「話すから、オレにも一服お願いできる?」と言った。あやめは、
「かしこまりました。」とお茶の準備を始めた。
「初めて会った時、キレイな人だなと思ったんだ。」と話し始めた北見に、誰のことだろう?と思いながら、お茶碗にお湯を入れ、一度捨てた。
「真面目に仕事してるみたいで、上司の指示にも的確に先読みして動いてて、あー頭の回転速いんだなーこの人って。でも、全然笑わないからさ。何とか笑わせようと必死で話しかけた。」全然笑わない?誰のこと?思いながら、白布でキレイに拭き、茶碗に抹茶を入れた。
「やっと笑ったと思ったら想像以上に可愛くて、でもやっぱり中々笑ってくれなくてさ。どうやって近づこうかと思ってたら、コンペに出てくれるって聞いて、チャンスだと思ったんだ。」コンペ?え?倉本さんのコト言ってるのかな?と思いながら、倉本さんって普段笑わないのかな?と不確かな記憶を辿りながら、そんな風には思えず不思議に思いながら、お湯を注いだ。
「電車であった時は、本当に驚いたよ。会社と全然雰囲気違って、すごいおしゃれだし、確信が持てないまま声かけたら、すごく嫌そうな顔してたよね。」え?これって、私の話?と驚いて手を止め、顔を上げると、嬉しそうな顔で北見が見ていた。あやめは、戸惑いながら、中途半端に混ぜたお茶を思い出し、急いできちんと点てた。あやめが手を動かし始めると、
「でも、話しかけたらちゃんと答えてくれて。着物姿みせてって言ったら嫌ですって即答されて、どうもあんまり好感は持たれてない気はしたけど、反応が面白くってさ。必死に話しかけたよ。」あやめは茶筅を置いて、北見にお茶を出した。北見は茶碗を受け取って、「いただきます」と言って、一口啜り、茶碗を持ったまま話を続けた。
「スーパーで会った時は、運命を感じたな。相変わらず吉田さんは迷惑そうな顔してたけどね。煮魚作るって聞いて、本気で食べたいと思った。ま、断られたけど。」手持ち無沙汰になったあやめは、そういえば、そんなこともあったな…と思い出しながら、茶さじを拭いて、袱紗をたたみ直した。
「ここに初めてきた日も驚いたな。叔父に呼びつけられて、見合いの話を突っぱねながら連れてこられた店で、年樹と嬉しそうな顔で話してるの見て、苛ついた。中村さんにも笑顔で話してるのに、オレには全然懐かないのが悔しくてさ。テキパキとお茶菓子を準備したり、次に必要なものや段取りを考えてパッパと進めてる姿に、やっぱりきっちり仕事が出来る賢い人なんだなって感心した。帰りの車で話しかけたら、何でも正直に答えてくれて。あの日、嫌われてるわけじゃないんだってやっとわかったよ。」あやめは、確かに嫌いという感覚はなかったなーと思った。
「コンペの日の衝撃はすごかったな。吉田さんがどんな作品を作るのか、興味はあったけど、正直それほど期待はしてなかった。なのに、あのイラストだ。そんな武器どこに隠してたんだよって、思ったよ。」と北見は笑った。あやめは、
「武器って…。私のイラストは単なる趣味の範疇を出ません。」と口にした。北見は
「確かに、今はそうかもしれない。でも、吉田さんのイラストとあのセンスは、デザイン企画の人間にとっては脅威以外の何物でもないよ。」と言った。あやめが首を傾げると、
「仕事もしっかり出来るのに、普段は光る才能を隠してて、気になって仕方なかった。スキがないのかと思ったら、打ち上げで気がついたら楽しく酔っぱらってて…心配して見てたら、いつの間にか爆睡してるし。」あやめは赤面して、
「その節は大変ご迷惑をおかけしました。」と謝った。
「家に連れ帰ったら少しは意識してくれるのかと思ったら、全然でさ。がっくりしながら、無理やり腕の中に閉じ込めたら、全然抵抗しないし。あまりに抱き心地が良くて、いつの間にか安心して寝ちゃって…起きたらもぬけの殻だし。オレがどれだけ落ち込んだか知らないでしょ?」
「ちゃんと置き手紙はしました。」とあやめが言うと、北見はクスッと笑い、
「あの詫び状ね。どうやって距離を縮めようかと考えたけど、中々いい策が見つからなくて、そうしてる間に、叔父が勝手に動き出してて、祖父や母にまで呼び出しを食らった。叔母に良い人を紹介するからって連れてこられた店先に、着物姿の吉田さんがいたんだ。」それがさっきの状況だな、と冷静に他人事のように考えていたあやめは
「キレイに着物を着て、外国人と親しげに話している吉田さんを見て、まだこんな才能を隠していたのか。一体何者なんだって。見惚れながら考えてた。」と言われ、
「私には才能なんて何もありませんよ。」とあやめは言った。北見は
「そう言うだろうと思ったけど、オレからしたら、イラストがかけることも、着物が着られることも、こうやってお茶が点てられることも、英語が喋れることも、立派な才能だよ。」といった。あやめが少し考えると、北見は茶碗に残っていたお茶をズズっと飲んで、
「ごちそうさま。」とあやめに渡した。あやめは茶碗を受取って、袂から和三盆の包を出した。北見は不思議そうな顔で受け取ると、
「冷めてしまうと苦味が強くないですか?」とあやめが言った。北見は包を開けて口に含んでから、
「こういう気配りが自然に出来るところも、好き。」とあやめの顔を見て笑った。あやめはあまりにもストレートに好きと言われ、赤面して視線を反らした。北見は
「吉田さんが好きだ。付き合って欲しい。返事は急がなくて良いから、オレと付き合うこと、少し考えてみてくれないか?」と言った。あやめは突然の告白に、戸惑いしかなく、
「…少し時間を下さい。」と答えることしかできなかった。