ハイスペックなイケメン部長はオタク女子に夢中(完)
29.魚売り場のデジャブ

それから、三人で色んな話をしながらお酒を飲んでいると、突然厨房から「社長」が現れた。思わず、

「あ、社長…」と呟いたあやめに藍子が食いついてきて、イラスト仲間たちとの妄想話を披露することになった。倉本も藍子も大笑いしていて、「社長」もといPer teのシェフの祐さんも、笑っていた。自宅が近いことを話すと、いつでも気楽に食べにおいで、と言ってもらい、夜に来ると漏れなく藍子もついてくると聞き、あやめは、またここに来ようと思った。

土曜日、いつもの休日通り、部屋の掃除をして、緩めのジーンズにグレーのパーカーに黒縁メガネという、部屋着スタイルのまま、いつものスーパーへ食料品の買い出しに行った。北見に返事はまだ出来ていない。北見からの催促もないし、あやめからも連絡はしていない。鮮魚コーナーで、イワシのパックが安売りになっているのを見て、ちょっとこの量は多いな…と手を出すかを迷って、他の魚を見ていると、ぶりのカマが目に入った。そう言えば、北見が煮付けを食べたいと言っていたな…と思い出しながら、隣の二切れの銀鮭のパックを取ろうとしていると、

「またここで会ったね。」とスウェット姿の完全オフモードの北見が声をかけた。デジャブの状況に驚きながらもあやめは

「そう言えば、この間もここで会いましたね。」と笑った。あやめが普通に返事をしたことに驚いた様子の北見に、

「北見部長、イワシの梅煮ってお好きですか?」と聞いた。北見はまだ驚いたままで

「え?何?」と聞き返した。あやめが

「イワシをお醤油とかお酒とかみりんとかお酢とかと一緒に梅干しも入れて炊くやつなんですけど、食べたことありません?」と聞くと、

「あー、どうだろう?あんまり魚に詳しくないから…食べたことあるかわからない。」と北見は言った。あやめは、そういうものなのか…と思いながら、

「あー、そうなんですね。」と答えた。

「でも、何で?突然。」と聞かれ、

「この間、アラの煮付け食べたいっておっしゃってたんで、煮魚がお好きなのかな?と思って。」とあやめが言うと、

「煮魚は普通に好きだけど…食べさせてくれるの?」と北見がニヤッと笑って言った。

「イワシ、この量だと3日間くらい続きそうだなーと思ったんで、北見部長が好きならおすそ分けしようかと思ったんですけど。」とあやめが普通に答えると、北見は絶句して

「…え?まじで?」と呟いた。あやめは、

「今日はカマもありますけど、コレなら煮魚よりも普通に塩焼きのほうが美味しそうですよね?」と話しかけると、北見は

「ちょ、ちょっと待って。それってどういうこと?オレ、期待してもいいの?」とあやめの腕を掴んで言った。あやめが

「腕、離して下さい。」と言うと、北見はハッとして腕を離し、

「ごめん。」と謝った。あやめが、

「とりあえず、先に買い物しても良いですか?話は後でってことで。」と言うと、北見は驚いた顔をしてからコクコクと頷いた。あやめは結局イワシをかごに入れ、お肉コーナーで鶏ももと豚コマ肉を買い、予定通りに一週間分の必要な物をかごに入れて歩いた。北見は、まだボーッとしていて、カゴに何も入れないまま、ただあやめについて歩いていたので、

「北見部長、何か買いに来たんじゃないんですか?」と声をかけると、ハッとして、ビールやパン、缶詰やカップ麺などをかごに入れていった。自分のものとは対象的なかごの中身を見て、

「普段こういう食事なんですか?」とあやめが聞くと、北見はバツが悪そうに

「まぁ、外で食べることも多いしね、自炊はあんまり得意じゃない。」と答えた。あやめは

「そうなんですか。」と言いながら、食事はちゃんとしないと身体壊すのに…と思った。精算を済ませて、この食材を持ったまま話すのってどうなんだろう?と今になって気がついた。北見は買ったものを袋に詰め終えると、

「とりあえず、うちに来ない?魚とか肉とか、冷蔵庫にいれなきゃいけないだろうし…。」と言った。あやめは、一旦帰るよりもここからだと北見の家の方が近いと判断し、

「じゃぁ、お言葉に甘えます。」と答えると、北見は

「えっ?いいの?」と自分で誘っておいて戸惑っていた。あやめがクスッと笑うと、北見は両手に袋を下げて歩き出した。
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