ハイスペックなイケメン部長はオタク女子に夢中(完)
34.貢ぐ男
帰ろうとするあやめと、泊まったら良いと言う北見との攻防を何度も繰り返し、着替えがないという理由で言いくるめたあやめは、明日も来るという約束をして帰宅した。アパート前まで送ってくれた北見は、ここはセキュリティが心配だと言いながら、帰っていった。翌朝、迎えに来た北見の車に乗ると、何故か大型のショッピングモールまで連れて行かれた。あやめが、

「もっと近くのスーパーとかで良かったのに」と言うと、北見は

「ここなら全部揃うから」と言って、意気揚々と食器売場へ向った。二人でお茶碗や湯呑みを見て、安いので良いというあやめの意見に全く耳を傾けず、北見はなぜか夫婦茶碗を見ていて、

「一つあるから、一つで良くないですか?」と言うと、

「せっかく買うんだから揃いの方が良い。」と言って、the夫婦茶碗という感じのシンプルな臙脂色と紺色のシマシマ模様の茶碗と箸のセット、アイボリーの湯呑みのセット、漆器のお椀2つにシンプルな白の皿5枚セット、中皿2枚、カレー皿2枚と、躊躇なくどんどんかごに入れていく北見に唖然としながら、あやめは、何を言っても無駄だろうと半ば諦めて、買い物に付き合った。一通り食器を揃えると、隣接していた調理器具のコーナーに行き、まな板や包丁、フライパンや鍋をみて、

「どれが良い?」と北見は目を輝かせて聞いた。あやめは、普通の木製のまな板と、ごく普通の包丁だけ選び、

「後はあるので良い」と言ったが、いつの間にかT-falの鍋セットもかごに入れていた。あやめが少し離れて圧力鍋のコーナーをみていると、

「これ良くない?」と言って、電気で保温調理が出来る高級な鍋を北見はしきりに勧めてきた。あやめが、

「それだったら、こっちの普通の圧力鍋のほうが良いです。」と言うと、

「そうなの?」と圧力鍋をかごに入れた。まるで新生活を始めますというような量の調理器具と食器を購入し、大きなカートを借りて、車まで運ぶと、

「次は服だな」と言って、またモールへと戻り、婦人服売り場の階で下りた。何で?と思いながら手を引かれ、入った洋品店で北見は意気揚々と洋服を選んでいる。あやめは思わず、

「あの、これは一体何のマネですか?」と北見に聞くと、

「うちに置いておくあやめの服だよ。これも可愛いと思うけど、あやめはどういうのが良い?」と満面の笑みで聞いた。あやめは軽くめまいを覚えながら、

「有り得ない…。ってか、服とか要らないです。帰りましょう。」と言うと、

「えー?何で?いいじゃん。じゃぁ、一着だけでいいから選ばせて。」と北見は言った。あやめが仕方なく頷くと、最初から決めていたのか、オレンジのペンシルスカートにカーキのニットアンサンブルを持ってきて、

「これ、試着してみて。」と言った。あやめは諦めて試着をすると、サイズもぴったりで、あやめも気に入ったが、値札を見てびっくりした。あやめがいつも買うものよりもゼロが一つ多い。催促されて、試着室から出ると、

「やっぱり似合うと思ったんだ。」と得意げな様子の北見が、店員に同意を求め、

「ホントよくお似合いです。」と言われてしまい、あやめは、北見の手前、値段が…とは言い出せず、これに合わせるタイツも一緒に購入されてしまった。

「ありがとうございます。」と言いながらも複雑な表情のあやめを、下着売り場に連れてくると、いつの間にか店員と話をつけていたようで、サイズの確認をしてもらっている間に購入が済んでいた。唖然として北見を見るあやめに、

「あとは、シャンプーとか化粧品とかだね。」と満面の笑みで言う北見に、

「これって、今日泊まらせるための算段ですか?」とあやめが言うと、

「今日っていうか、これからのため?」と何故か聞き返された。あやめは大きくため息をついて、

「歩いて10分もかからない距離に住んでるんですよ。取りに帰れる距離なんだから何もかも揃える必要なんかありません。無駄に散財しないで下さい。」と言うと、シュンとなって

「ごめん…。嬉しくてちょっとはしゃぎすぎました。」と反省した様子だった。あやめは、

「私、部長に貢がせてるとか言われるの嫌ですから。」と言うと、ハッとした顔をして、

「帰ろうか…。」と言った。帰りの車でも、落ち込んだ様子のままで、あやめは少し言い過ぎたかな…と反省した。途中、家に寄ってもらい、昨晩漬け込んだ野菜のマリネと、梅干しをタッパーに入れ、化粧道具と一泊分の荷物を大きな保冷バックに一緒に詰め、車に戻ると、

「食材?」と聞かれ、

「はい。ちょっと雅也さんの食生活が心配だし、圧力鍋買ってもらったから試してみたくって。」とあやめが言うと、北見はやっと嬉しそうに笑って

「ありがとう」と言った。
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