ハイスペックなイケメン部長はオタク女子に夢中(完)
4. 村川課長のおせっかい

翌日、いつものように総務課のデスクで入力作業を続けていると、北見部長が異動届の書類をもってやってきた。

「吉田さん、コンペ出てくれるんだって?」と北見部長に言われ、あやめはとても驚きながら

「いえ、出すと決まったわけじゃないのですが」とあやめは答えた。北見は

「村川課長から吉田さんが出すからフォローよろしくって言われたんだけど?」と不思議そうな顔であやめを見た。あやめはまじかーと思いながら、

「課長から出したらどうか?とご提案頂いて、考えてみようは思っているんですが、私に出来るかどうかわからないので…」とごまかすと、北見は

「あー、まだ迷ってるんだ。ま、迷ってるならとりあえず、題材探しから始めてみたら?三週間って案外時間無いし、出そうかどうか迷うくらいなら、ひとまず動き出してみた方が良いよ。途中でやっぱりできないってなれば、また考えれば良いんじゃない?」と言った。あやめが、

「そうですね。どこまで出来るかわかりませんが、やれるところまでやってみます。」と答えると、北見は

「期待してるよ。何か作業でわからないことがあったらいつでも聞いて。」と微笑んだ。あやめは、

「ありがとうございます。」と頭を下げ、受け取った転居書類を確認し、

「では、こちら、たしかにお預かりしました。」と一礼し、席に戻り入力作業を続けながら、一応始めたふりをしとかなきゃ課長の手前まずそうだなーと思い、帰ったら一度、鎌倉の叔父に連絡してみようと思った。

定時に仕事を終え、いつも通りの時間に自宅アパートに着くと、とりあえず叔父の携帯に電話をかけた。

「珍しいじゃん、あやめから連絡なんて。どうかした?」と叔父の第一声に、

「突然ごめんね、今大丈夫?」とあやめが聞くと、

「大丈夫じゃなかったら出てねーよ」と笑った。叔父、水谷竜二は母の年の離れた弟で、まだ40代前半のはずだ。母の実家は鎌倉で古くから営む和菓子屋「水谷」で、その末っ子として生まれ、継ぐと思っていた長男が就職してしまい、次男の竜二が継ぐことになった。元来人懐っこく、地域との交友関係も広く、職人としての腕前は祖父に言わせるとまだまだらしいが、店の顔として広報を担当している。

「この間、イートイン始めるって言ってたでしょ?あれ、どうなった?」とあやめが聞くと、

「あー、奥の土間改装して、一応いい感じのスペースが出来たよ。客の入りはまぁぼちぼちかなー。」と竜二が言った。あやめが

「そっか。なんか宣伝したの?イートインはじめました。みたいな。」と聞くと、

「一応店の中には張り紙してるけど、イートインがどうかしたか?」と聞き返され、あやめはコンペの話を竜二に説明した。すると、竜二は

「そりゃー助かるわ。あやめ、一回見に来て良いの作ってくれよ。外国人観光客が増えそうなやつ。あ、お前の得意なアニメとか入れてさ、サブカルチャーと伝統文化の融合みたいな。どう?いいんじゃない?」と乗り気になった。あやめは、サブカルチャーと伝統文化の融合か…と少し考えて、悪くないかもしれない、と判断した。どうせコンペに出せるものになるかはわからないのだから、自分の趣味を混ぜ込んでも問題ないだろう。いずれにせよ自分の時間が削られるなら、少しでも身内の役に立って、自分が楽しむ時間にしたい。

「んー良いかも。とりあえず、週末一回お店見に行くね。」と電話を切った。あやめはお店の情景を想像しながら、どんなキャラが良いか?外国人を意識するならやっぱり着物キャラ?いや、むしろ、美少女系?でも、女子ウケを狙うなら、かっこいい系も必要かな?などと妄想を膨らませ、いくつものイラストの下案を殴り書きでスケッチした。
< 4 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop