剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「そのときは俺が診てやるさ」

 茶々を入れるジェイドを無視して、ルディガーは預かってきたセシリアの外套を彼女に羽織らせる。セシリアは瓶を抱えているので下手に抵抗できず、素直に受け入れた。

 その様子を見ていたジェイドがさらにルディガーに声をかける。

「わざわざ俺にまで見せつける必要はないぞ」

「なんのことだい?」

 ジェイドの方を見ずにだが、今度はルディガーがさらっと答えた。

「で、懐かしの婚約者との再会はどうだった? さぞや盛り上がったんだろ」

 そこでルディガーはジェイドの方に顔を向けた。あからさまな嫌悪感を滲ませて、その眼差しは鋭い。セシリアに見せていた表情とは真逆だ。

「話す内容は主にドリスのことさ」

 ドリスの名前が挙がり、セシリアが反応を示す。ルディガーは一度セシリアと目を合わせてから説明を続けた。

「ドリスの想い人は友人キャミーの三つ年上の兄、キースらしい。元々ドリスは行動派で彼に会うべくキャミーの家はもちろん、友人の家を訪れたり招いたりも頻繁にしている。身元はしっかりしているとはいえ、そこの繋がりで妙な美容法にはまっているのかもしれないな」

 おそらくエルザから聞いたのだろう。自分以上にドリスの情報を掴んでいる上官にセシリアは舌を巻く。同時に自分の力不足に顔をしかめた。

 ジェイドが問う。

「交友関係が広いのも考えものだな。で、そのキースとやらは細身の女が好きなのか?」

「前に交際していた女性が痩せ型だったとは聞いている。おかげでドリスも食事制限をしたり、あれこれ努力しているらしいが……」

 ルディガーがそこで一度言葉を句切った。やや声のトーンを落として続ける。
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