剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 それからライラは慣れた手つきでお茶を淹れる準備を始める。セシリアは再び書類に視線を戻し、意識を集中させた。

「セシリアさん」

 声をかけられ、セシリアは我に返る。すぐ傍らでライラがソーサーに乗ったカップを持ち困惑気味に微笑んでいるので、セシリアは慌てて自分の前のスペースを空けた。

 そこへライラが控えめにカップを置く。ライラの白い手を見つめ、セシリアの注意はカップの中身に映った。あまり色づいていない液体はほんのり薄い青紫色だ。

 寂しげな色合いとは相反して香りは甘めで、匂いが部屋に漂い、鼻孔をくすぐる。

「『ヴェター』という花の葉を煎じたんです。副交感神経に作用し疲労回復にぴったりなんですよ」

 ライラからの説明を受けセシリアは少しだけカップに口をつける。香りに反して味に甘さはなく、後から少し苦味がくるが飲みやすい。

 セシリアが飲むのをライラは固唾を飲んで見守っている。

「ありがとうございます、美味しいですよ」

 セシリアの感想にライラは安堵の色を浮かべた。

「珍しい花ですか? 初めて知りました」

 今度はセシリアから話題を振ってみる。ライラの得意分野だ。その証拠にライラは意気揚々と説明を始める。

「あまり一般的ではないですね。ヴェターの花は要注意ですから。見た目は小さな薄く青い花で、どこにでもありそうな野草そのものなんですが、根から抽出される成分には神経と脳を刺激し、トランス状態に陥らせたりします」

 あまりにも過激な情報にセシリアはカップの中身を思わず確認する。それを見てライラは慌ててフォローした。
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