剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「どうされ……」

「言っただろ、口説きにきたんだ」

 思わぬ切り返しに目を見張る。困惑するセシリアをよそに、ルディガーは改めてセシリアと正面から向き合った。

 続けて仮面に隠れず露わになっているセシリアの白い頬を撫でると、当然の流れと言わんばかりに彼女に口づける。

 まさかの行動にセシリアは目を開けたまま硬直した。

「酔ってます?」

 唇が離れ、すかさず尋ねる。驚きはしたが、冷静さは保っている。

 それは声にも表れ、そんなセシリアの問いにルディガーは抑揚なく答えた。

「ああ、酔ってるよ」

 さらにセシリアの頤に手をかけおもむろに顔を近づけた。濃褐色の虹彩が揺れ彼女を捕える。

「どうしようもないくらいにね」

 下唇を舐め取られたのを皮切りに有無を言わせない甘い口づけが始まる。

 セシリアは思わず眉をひそめたが、抵抗もせずにただ受け入れた。

 幾度となく触れ方を変え、次第に唇が離れる間隔が短くなる。舌を滑り込まされ、より深く求められると、わずかにくぐっもった声が漏れた。

「ふっ……」

 観念してぎこちなくもキスに応じる。上官の考えが読めない。すると不意に人の気配を感じた。

 条件反射でセシリアは顎を引こうとしたが、ルディガーがすぐさま口を塞ぎ口づけを続行させる。

「ぁ……っ」

 いつの間にか腰に腕を回され、逃げ道がなくなっていた。

 さすがに戸惑っていると視界の端に赤いドレスが映る。裾が翻り、逃げ出すように遠ざかっていくのが窺えた。

 自分よりも敏いルディガーが気づいていないわけがない。
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