剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「久しぶりにセドリックに会いに行こうか」

 やっとセシリアに気兼ねなく触れられる嬉しさに包まれながら、ルディガーは提案した。

 彼の腕の中にいるセシリアは、軽く身動ぎしてから顔を上げ、大きな瞳にルディガーを映した。ルディガーは優しく微笑む。

「報告に行かないと。きっとシリーの幸せを一番に願っていたのはあいつだから」

 セシリアはくしゃりと顔を歪め、軽く頷きルディガーの申し出を受け入れる。思えば、ふたりでセドリックの墓参りに行ったことはない。セシリアは震える声で告げた。

「でも……願うだけじゃ駄目なんです、そばにいないと……」

 ルディガーはセシリアの頭を撫でて安心させてやる。

「そう。だから君を幸せにするのは俺だよ。絶対に置いていかないし、そばにいる」

 セシリアの胸に熱いものが込み上げる。自分の気持ちも同じだ。声にすると違うものまで溢れ出そうで、頷くのが精いっぱいだった。

「またあいつの思い出も話していこう。シリーの話も聞くし、聞かせてほしい。俺の話もね」

 ルディガーはセシリアの手を取り、掌に音を立てて口づける。

「愛している。一生かけて守っていくから」

 ルディガーの誓いに、堪えていた涙がセシリアの頬を滑った。セシリアの表情は笑顔だ。取られていた手に指が絡められ、どちらからともなく唇を重ねる。

 徐々に部屋の中に薄明かりが差し込み、傍らに置いていた剣を照らす。暗く長かった夜に朝が来たのだと静かにふたりに告げていた。

Fin.

(掌に口づけ……懇願、求愛、結婚を乞う)
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