夜のしめやかな願い
会社が倒産し、父が死んだ後、母の様子は段々とおかしくなっていった。
母は、思っていた人生が叶わないことを、受け入れられなかったのだろう。
憧れている内藤静香とは、絶対、同じようにはなれない。
そして娘のさゆりが内藤家に嫁ぐことはない、ということに。
でもその嘆きや怒りや恨みなど、渦巻く感情の矛先が、さゆりに向かわなかったのは、宗臣のおかげだった。
遺産の手続き、アパートの契約、もろもろのこと全てに宗臣が手を貸してくれた。
まるで義理の息子のように。
一定期間ごとに様子を見に来てくれて、必ず母のプライドが満足する高級菓子と紅茶の葉を持ってきてくれた。
だからどん底の生活の中でも、まだ母はかろうじて夢を見れたのだろう。
こんなに世話をしてくれる宗臣は、さゆりと結婚して、本当の義理の息子になるに違いない。
娘を介して、自分も内藤家に同化するのだと。