夜のしめやかな願い
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東南アジア特有の匂いが漂う街中に、昭和に作られたような団地が広がっている。
さゆりはメモを片手に目当ての棟に入ると階段を昇った。
気温が高いためか、各戸の玄関ドアが大小はあるものの開いていて、生活音が建物の中に響いていた。
さゆりの目当ての部屋も、こぶし一つほど開いており、その隙間から中に座っている人が見えた。
ドアに手をかけて大きく開くと声をかけた。
「オミ」
机に向かって俯いていた顔を上げると、髪がさらさらと動いて瞳が向いた。
さゆりの記憶にある限り、小さいころから宗臣はいつも髪の毛をきっちり左右に分けてセットしていた。
さゆりの部屋に泊まる夜でさえ。
その異常さに今、気が付く。
だからこんな風に自然に流したままの髪型をしているのを見て、そして恐ろしく宗忠に似ていることに改めて驚いた。