シュガーとアップル



そういうと、伯爵はすぐに店員の元へ持っていく。


「ま、待ってください、お金は私が…!」

「それではプレゼントの意味がないだろう? ここは私に譲って」


穏やかだけど反論をさせない語気を感じ、財布を出そうとしたハンナの右手が宙をかいた。

止める間も無く伯爵は会計を済ませてしまった。

可愛らしく梱包されたリボンを渡され、ハンナは流されるままそれを受け取った。


(ほ、ほんとに伯爵さまが私のためにリボンを買ってくださった…)


これは夢か?それとも陽の光にうかされて幻覚が起きてるのだろうか。


「さて…私が買いたいものは買ったし、君も欲しいものがあったんだよね? 気にせず見ておいで。邪魔なようなら私は外にいるから」

「……いえ、大丈夫です」


気の抜けた返事をするハンナに伯爵は腰をかがめて顔を覗き込んでくる。


「遠慮しなくていいんだよ?」

「いいえ、私の用事も済みましたから、いいんです」


ハンナは受け取ったリボンの包みを胸にあてる。

顔が紅潮しているのが自分でもわかり、覗き込んでくる伯爵の顔から目を背け、ハンナは言った。


「わ、私…、今日はリボンを買いに来たんです」


伯爵が息を呑む気配を感じた。

その様子にハンナはさらに顔が熱くなるのを感じたが、小さく言葉を続けた。


「私も、赤いリボンが、欲しくて…。下町の店で済ましてもよかったんですけど、は、伯爵さまが気にかけてくださったから、少しでも良いものが欲しくて……それで」


俯いているせいで表情は見えないが、伯爵は固まったように動かなかった。


< 21 / 28 >

この作品をシェア

pagetop