敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「君のおかげで最近の薫はよく笑うようになったしね。本当にありがとう」
「い、いえ、私は何も……」
室長が私を見て抱いた感想を他の誰かから聞くのはとても嬉しくてくすぐったい。
ここに室長はいないのに、頭の中が室長で埋め尽くされていくかのようだ。
「でね、ここからが本題」
「は、はい」
「薫のこと、癒してやってほしいんだ」
「え?」
話の流れが急に飛躍した気がして、たぶんものすごく間の抜けた顔になっていると思う。
私の短絡思考だと、癒しといえばリラックスで、リラックスといえばマッサージとか?
だけど少しアダルトなことを指すなら、まさか……?
「あはは、悩んじゃったね。ごめん、たぶん君が思ってるようなことじゃないよ」
「あ……、そ、そうですか……」
「いや、今朝話した時、何か欲しいものないか、って聞いたら、『水』って言われてさ。どうもウォーターサーバーぶっ壊したらしいんだよね」
「えっ!こ、壊すって……」
「なんか前から入れ替えする時、上手く嵌まんなくなってたらしくて。だからすぐ新しいのを手配して、12時前には届くんだ。でも薫は具合悪いから寝てるかもしれなくて。そこで、君にお願いしようかと」
そう言ってニコッと屈託のない笑みを浮かべる社長だけれど、私にお願いしたいことが何なのかが垣間見えてしまった私としては妙な動悸が激しくなってきて。
「はい。これ」
「……これは……?」
社長がテーブルの上に置いたのはなんの変哲もない1枚のカード。
一体なんです?と目で問いかけるように社長の顔を見つめると。
「それね、薫の家のカードキー。君に、行ってきてほしいんだ」
「え……?」
予想外の展開に戸惑い、すっかり固まっていると、社長は「よろしくね」と言って室長のお宅のカードキーを差し出してきた。
戸惑いつつもおずおずとそれを受け取ると、社長は「いってらっしゃい」と言って満面の笑みを私に向けた。