敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「……きっと君の子供は、当たり前のようにこうしてそばにいてもらえるんだろうな……」
ぽつり、と聞かせるつもりのない独り言を呟くように力無げに話す室長に、会ったこともない子供の頃の彼の姿が脳裏に浮かぶ。
きっと同情なんてしてほしくないと思う。
だけど昔を思い出したのか、こんな台詞を吐く室長に触れて心が揺さぶられずにはいられなくて。
「……悪い。何言ってるんだろうな……」
「わ、私は大丈夫です……。き、気にせず……何でも言ってほしいです……」
「……俺が可哀想だから?」
「ち、違います……!可哀想だとか、そうじゃなくて……頭の中に小さい頃の室長が思い浮かんで……」
「いいよ。俺は普通に育ってきてないって君も気付いてるだろう?だから同情されても……」
「本当に違うんです……!確かに可哀想っていう気持ちもあるけど、それだけじゃなくて……。同情だけで、こんなに胸が痛くなるって、ありますか……?」
泣いたら絶対、室長は同情されて泣いてるって思うはずだから泣きたくなんかないのに。
勝手に頭の中に、熱があっても誰にも心配されないと言っていた幼い室長の姿が思い浮かんで涙腺を緩ませる。
「……本当に君は色んな顔をするね……。俺は素直に感情を表現できる君に、ずっと前から憧れてたのかもしれない」
そう言って室長は我慢出来ずに傍らで涙をこぼす私を慰めるてくれるけど。
そんな風に言われては一層感情が昂ってしまい、私の涙は中々止まってはくれなかった。