敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「あの、室長……、口が悪くなってません?」
「別に。俺はいつもこうだよ」
「ごめんなさい。つまんない話しちゃって……」
「違う。君が悪い訳じゃない。あー……、くそっ……」
「あ……」
細い腰を引き寄せ、彼女の肢体を腕の中に閉じ込めた。
温かく柔らかな感触が、苛立ちを和らげてくれるから不思議だ。
「……悪い、汗臭い?」
「いえ……」
もしかするとそれは気遣いかもしれない。
どう考えても熱の下がった寝起きの体はいい匂いはしないだろう。
だが彼女は俺の背中に腕を回し、ぎゅっとしがみついてくる。
だんだん頭の中に彼女の温もりに包まれる自分が思い浮かび、理性と情欲の狭間で揺れ動く時間が過ぎていく。
「……室長……」
「何……?」
「私……、室長の……、ん……?」
「……何だ……、焦げ臭い……?」
「あっ、お粥!焦げてる……!」
体を寄せ合う俺達の後ろで、パチパチとお粥らしからぬ乾いた音が聞こえる。
彼女は慌てて火を止め、はあ、と大きなため息をつく。
なんとも香ばしい匂いに艶めいた雰囲気はあえなくかき消されてしまった。
残念なような、ほっとしたような、変な気分だ。
まあほっとしたという方が大きいか。
あのままだと確実に抱いてた。
彼女の気持ちが追いつくことも待てずに、ベッドへ連れていったに違いない。
女性に真剣に向き合ってこなかった俺は、せめて彼女にだけは真摯に向き合いたい。
だから焦らず、彼女の方から望むまでは待ちたい。
少なからずそれが彼女への誠意になるだろうから。