敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~



「気を付けて帰れよ?」

「はい。大丈夫です」


そろそろ帰らなければ明日に差し支える時間となり、外までは送れないがエレベーターまで彼女を見送ることにした。


「今日は本当に……、クッ……」

「も、もう!まだ笑い足りないんですか?」

「いや、あんなに自信ありげにお粥を不味く作るの難しいって言ってたのに……、あんな……、ふっ」

「笑いすぎです……!」


彼女はそう言ってふくれているが、俺はどうにも笑いが止まらない。

自分はこんなに笑えるのかと思うほど、焦げた鍋を茫然と見つめる彼女の姿を思い出すたび笑いが込み上げてくる。

ただ彼女が鍋から目を離してしまったことについては、彼女に迫っていた俺も悪かった。

食べられるところもあったが、水分が飛んで粥というよりは軟らかな米といった食感に、彼女はしきりに「ごめんなさい」と力なく呟くので、俺としてはその可愛さに満足していた。


「次は頑張ります!」

「ふ……、次ってことは、俺の具合が悪かったらまた来てくれるんだ?」


淡い期待を込めて俺がこう訊くと、彼女は俺を見上げ真っ直ぐな目を向ける。


「……来ますよ? 室長がよければ……私に甘えてほしいです……」


熱のせいか、彼女に心を許したからか、さんざんらしくない俺を見せたから、彼女がこう言ったのだろうが。

とりあえず今、この台詞は反則だ。

こっちは色々我慢して抑え込んでいるものもあるんだ。
自分の家に、自分が気にかけている相手がいて、何もしないで帰すなんてこれまでの俺じゃ考えられないのだから。
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