敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「本当にすまない。禁欲生活が長かったせいもあって止められなかった」
「い、いえ……。私の方こそ突然あんなことしてしまって……」
「あれはいいよ。可愛かったから」
「え」
「はは、わかってる? 君から来ると思ってなかったから、可愛いと思って止められなくなった」
「そ、そうなんですか……」
そう言って照れてるのか口元を隠すように両手で覆う彼女を見ていると、他の誰にも感じたことのない、初めて知る感情が自分の中にあることに気が付いた。
「嬉しいのか。尻尾振ってるな」
「振ってません! というかないですって言ってるのに」
「ははっ……、あ、エレベーター来たね」
再びエレベーターが到着し、彼女が今度こそ乗り込む。
一瞬帰したくないと思ったが、今日は諦めるしかない。
「……じゃ、明日な」
「はい……。室長は無理なさらない方が……」
「いや、明日は行くよ。それより絶対タクシー乗れよ? 下には伝えて手配してあるから」
「わかりました。じゃあ……また、明日……」
「七海。次は、逃がさないからな?」
「っ……!」
扉が閉まり、俺の台詞に照れて頬を染めた彼女の姿が見えなくなる。
微かに感じる寂しさはさっき気付いたばかりの感情のせいなのか。
この満たされない感情はどうすれば解消されるのだろう。
きっと体を繋げても満たされはしない。
だったら、どうしたらいいんだ?
俺はその夜、誰が答えてくれるでもない自問自答に、彼女の残り香が漂う部屋で一人、思いを巡らせて過ごした。