敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「僕のことは、好きになれそうもないですか?」
「あの……」
「僕は、これからもっとあなたを知りたいんです。そして、あなたにも僕のことを知ってもらう機会がほしい」
こんな風に真っ直ぐに素直な思いをぶつけられたのはいつ以来だろう。
いや、こんなことなかったかもしれない。
それに雰囲気というか、審美眼というか洞察力というのか、瞬時に頭で理解してしまう、できる男の特性みたいなものが室長に似ていて妙に落ち着かない。
「あなたの興味を、僕に向けてみませんか?」
そう言って常務は最上級の微笑みを添える。
口説き方はストレートなのに、使う言葉が絶妙に曖昧で、どう断ればいいのか、そもそも断ることなのかさえも迷ってしまう。
好きか嫌いかの二択を訊かれても答えるのは難しいけど、こんな風にソフトに迫られてもうまくかわせるほど私は恋愛慣れしていなくて。
「ふふ、あなたがそこまで悩んでくださるのは可能性がゼロじゃないから、と思って良さそうですね」
「えっ、あの……」
「ーー神田さん、そういうところが隙がある、って言うんですよ?」
まるで天使が意地悪に微笑むかのような表情を添えてこう言われては、私には返す言葉が見当たらず、上手く丸め込まれたと脱帽してしまった。