敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
私のほぼ真横に立っているので、室長の表情はなんにもわからないけど、体の左半分はしっかり意識しているのか、息をするのを忘れたかのように固まっている。
「ゴホッ……」
あまりにも息が詰まりそうな空気の中、重い咳をする室長に、思わず隣を見上げてしまった。
久々に近くで見上げる室長はくやしいけどやっぱりカッコよくて、勝手に胸が騒ぎ始める。
でもどこか顔色が悪いような、そんな様子に単純に心配させられて。
「あの、また風邪ですか?」
「……ああ」
わかっていたけど素っ気ない返事がやっぱり辛い。
もう話し掛けなければこんな態度に傷つくこともないのだから、話し掛ければいいんだ。
そう私の頭の中では答えが出ているのに、それでもやっぱり私は次に話し掛ける言葉を探してる。
こんな小さなことことでも「素直になる」ってやっぱり難しい。
話したいのが素直な気持ちだけど、傷つきたくないから話し掛けない。
ああ、やっぱり難しい。
一体私はどうしたいのかな。
「……中々来ませんね。室長は外出ですか?」
「……ああ」
いつもはそんなに待たせないエレベーターが中々来なくて、思いがけない機会がやって来ているのに、私はそのチャンスを生かせず全く会話が続かない。
それより室長が時々苦しそうに咳をするのが気になってしまい、チラチラと隣を見上げることが何度か続いた時。
ふと、私の頭の中に室長のおでこに手をあてて熱を測ったことを思い出した。
あの時は見たことがないほどあっけにとられた顔をしていた室長が見れて幸せだったなぁ、なんて。