敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~


「……本当に、わたしのこと、何とも思ってないんですか……? 婚姻届をくれたのは、少しは私に気持ちがあったからじゃないんですか……?」


空気の抜けた風船じゃないけど、言いたいことを言い切ると残ったのは返事がないことへの不安だけ。

室長は私の訴えに驚いたようではあったけど、ゆっくりと椅子を回して窓の外へと視線を移していた。

その表情はあまりに固く、私がここまで訴えても何も響いていないのかもしれない。


「……どうしても私じゃ満足出来ないなら、もっと経験積みます……。だから……」


声はどんどんか細くなって、自分でも呆れるほどに勢いを失っていく。

これだけ言ってもダメならもう本当にダメということ。

そう思うとじわじわと心を蝕む喪失感が広がって、ここから逃げ出したい衝動がもうすぐそこまで迫ってきた。


「わ、わたし……」

「ーー経験積むって、どうやって?」

「え?」


後ろに一歩、後退りする直前に投げられた問いに戸惑う。

正直なところ、ベッドで室長を満足させられるようなテクニックを身に付けるなんて何をしたらいいのか見当もつかない。


「え、えっと……、ネットで調べる、とか……」

「それで経験積んだことになるのか?」


ふっと鼻で笑ったような口ぶりでそう言われ、どうせできっこないとバカにされてるような気がしたのは気のせいか。

いや、クッと肩を揺らして、目を細めるあの笑い方は紛れもなく私をからかっている時のものだ。
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