敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「この間、邪魔しちゃってごめんね?」
「え?」
「ほら、執務室でさ……」
「あ……」
「今度からは鍵かけろって薫に言っておくね。まあ、仕事中はホントはダメだよ?」
「っ……!」
何のために戻ってきたのかと思ったら、邪魔してごめんね、なんて社長の口からまさかの謝罪の言葉が出てきて。
執務机の上に押し倒されたまま、社長と目が合ったことを思い出して顔がかあっと赤くなるのがわかった。
「神田さん、薫のことよろしくね」
「え……」
「薫は元々いいかげんなことする奴じゃないから。君とのことはまだあんまり教えてくれないんだけど、今度君とも色々話せるといいね」
そう言って社長は爽やかな笑顔で私に向かって片手を上げ、今度こそ車へ乗り込む。
湿り気を帯びてまったりとした夜風を肌で感じながら、ゆっくりと動き出す車を見送る。
私の目は運転席の室長に釘付けで、何の反応もないだろうことは知りつつもじっと見つめていたけれど。
「あ……」
一瞬、ガラス越しに目が合った、そんな気がした。
もちろん、フロントガラスには街の灯りがキラキラと反射していたから私の気のせいかもしれないけれど。
ほんの数秒、視線が重なっただけで、私の胸は切なく高鳴る。
この後、きっと室長はあのバーで私を待っている。
佐伯さんを送ったり、予定は少し変わったかもしれないけれど、きっといるはず、そんな確信がある。
佐伯さんのこと、社長との関係、そして私と室長のこと。
話したいことがたくさん有りすぎて何から話そう。
そんなことを考えるだけでドキドキしている私は、確実に室長に惹かれつつあるに違いなかった。