敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
急いだせいで少し息が上がってる。
すう、とお店の扉の前で深呼吸をしてからドアノブに手を掛けた。
ゆっくり扉を開くと、ぼんやりとした明かりが灯された薄暗い店内が視界に広がり、私の視線はカウンターの奥へと向いていく。
「七海さん、こんばんは」
「こんばんは。えっと……」
「薫くん来てるよ」
「あ……。ありがとう」
カウンターには他にもお客さんがいて、奥の席が見づらくて室長の姿を確認できていない私に、室長のいとこであるという櫂くんが室長が来ていることを教えてくれた。
このお店は櫂くんと棗くんの兄弟二人でやっていて、二人は室長のいとこ、つまりは社長ともいとこに当たる身内だと、この前来た時に判明している。
室長がいるカウンターの奥へと向かうと、私が来たことに気付いていたのか、室長は優雅な笑みを浮かべてこちらを見ている。
ほんのイタズラ心で、この余裕な態度を崩してみたい、なんてことが思い浮かんで。
「ここ、座ってもいいですか?」
まるで初めて顔を合わせたかのように、そ知らぬ顔で室長の隣の席を指してそう訊いた。
室長は一瞬呆気にとられたような顔をしたけれど、すぐに口の端を緩く上げて「どうぞ」と返してきた。
「……待ち合わせですか?」
「え……」
一瞬でも室長が驚いたような顔をしたなら私はそれで満足だったのに、室長はまだこの”設定”を続けるようだ。