敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「さっき、俺にかけようとしてた?」
「え?」
「スマホ。じっと眺めてたからかかってくるかと思ってた」
「あ……、いえ、しばらく話せてないなあって思ってましたけど、電話ってハードル高くて」
「出張行ってる間、一回ぐらいかかってくると思ってたのに来ないから、何でかけないのか聞くためにかけようかと思ってた」
「ん?何かややこしいですけど。私にかけようと思ってたってことですか?」
「そうなるな」
かかってくると思ってたのに来ないからかけるとか、なんだか意味がよくわからなくなりそうだけど、話せてないのを気にしてたのは私だけじゃなかったということで。
少しは私のことも眼中にあるのかな、とちょっと嬉しい。
「君は社食だろう? 一緒に行っても?」
「え……、ふ、二人で?」
「何か変か? 傍から見ればただの上司と部下が一緒にいるだけだ。やましいことは何もない」
「……やましくないなんてよく言いましたね。質問する度いっぱいしたくせに」
「ふ……何を?」
そう言って室長はからかうような目で私の様子を窺ってくる。
佐伯さんと社長のことを聞く度に、キスを落として黙らせたのは室長なのに。
「はは、そんなにうらめしそうな顔するな。可愛い顔が……、っ……ゴホッ……」
エレベーターが到着して二人で乗り込もうとした時、ゴホゴホと嫌な咳をする室長。
社食のある階のボタンを押しながら室長の方を見ると、まだ口元を手で抑えて咳を抑え込もうとしている。