敏腕室長の恋愛遍歴~私と結婚しませんか~
「……大丈夫ですか?」
「……ああ。なんとか」
「風邪ですよね。なんか顔も少し赤くないです?」
「そうか?自分ではよくわからないが」
辛そうな咳が少し心配で、室長の様子を窺うとやはり顔が少し赤い気がする。
「あの……、絶対熱あると思うんですよね……。ちょっと失礼します」
「何を……、っ……」
少し背伸びをして室長の額にぴた、っと手をのせる。
その瞬間、室長がらしからぬ声を出したのが聞こえて。
「ごめんなさい。そんなにびっくりしました?」
「……まあ」
少しばつの悪そうな顔をして室長は目を逸らすので、私に触られたのがそんなに嫌だったのかと落ち込む。
「本当にごめんなさい……。熱あるか心配だったので……。いきなり軽率でしたよね」
「……いや、違う。そういうことじゃなくて……」
室長は明らかに歯切れが悪く、何か困った様子にさえ見える。
「……初めてだったから」
「え?」
「こんな風に熱を計られるのは初めてだったから、……少し動揺した」
さも言いづらそうにそう説明する室長の耳がだんだん赤くなっていくように見えるのは気のせいだろうか。