God bless you!~第13話「藤谷さん、と」
★★★右川カズミですが……「ここに来ると、俺はダメだ」
きっつい。
藤谷さん、マジきつい。キツ過ぎて、もう神。
右川も好きなの?って、あんな怖い顔で聞かれたら、あたしでも正直引く。
好きだと言えば、どの程度?と疑われそうな勢いだった。
ジャニーズの話をしている間、藤谷さんも取り巻きも〝そんな子供騙しの芸能人。ぷっ〟という小馬鹿にした態度が見え見え。
そりゃ、三浦大知とかに比べたら、と思うけど、たまにやって来た女子に対しても自分らの好みと熱量だけがふさわしいと主張するその態度。
だーかーらー、話が盛り上がらないんだってばよ。
合わない。
まったく合わない。
それを再認識した。
剣持金持ち。
さっそくチビチビ刺してくれたもんだから、試しに言い返してみた。
怒らせちゃった?やべぇーと、どこまでも笑い飛ばす余裕はある。
そこが永田とは違う。第一関門突破。
あれ自身、見た目は別として(あの声の破壊力も別として)、それほど嫌な性格ではない。
あたしに頼みたい事、と言った。
ズバリ折山ちゃんの事だろう。間違いない。
沢村は知らないと見た。知っててみんなの居る前で、剣持の話を聞け!と叫んだとしたら鈍い事この上ない。
金持ち野郎、ありゃどうみても、何とか自分と折山ちゃんをまとめてくれ、の顔だったな。
沢村とミノリを思い浮かべる。あれは似たもの同士。選挙でいつも一緒にいたわけだから、2人が接近するのも自然だったと思う。だけど今回は……。
折山ちゃんはあのグループにビビっている。
自分から近づく事は有りえない。
かまってちゃんの野外ライブか。あたしだって行きてーよ。
だけど、例えばあの軍団と一緒に行けと言われたとして、あたしは無理だ。
テイラースウィフトでも絶対、嫌だ。絶対つまんない。
折山ちゃんは、セカオワのファンだけど、例え趣味が一致しても、行きたくないだろう。金持ち野郎だけは別にして……と乗り切る以外に方法は無い。
2人の世界に周りは関係ない。あたしと沢村だってお互いの友達同士が親しい訳じゃないから。
藤谷と松倉など例えて言えば、東京ガールズコレクションと幕張コミケだ。
かすりもしない。
剣持と海川ともなれば、GUITAR MAGAZINEと東スポとなる。
まるでお笑い。
東スポーーーっ!ガハハハハ!
って、しばらく1人でマジ笑いしちゃうし。
そして、お昼休み。
今日は学食をやめにして、沢村とは生徒会室で待ち合わせる事になった。
何やら話があるらしいと、そんなラインが送られてきている。
沢村は、やたらと進撃の巨人スタンプを乱用してくれるけど……一体いくつ心臓を捧げりゃ気が済むのかよって。
つーか話って、何?
まさか?もしや?やっぱり?
職員室を出た所で、向こうからやって来た重森と遭遇した。
無言。ただただ無言。やけに意味ありげな目線を飛ばしてくれる。
怖れる事なんか無い。今はもう、いつかのあたしじゃない。
今は、こうやって人目もあるんだし……って、そうやって言い聞かせている事がもう普通じゃないと言えなくもないけど。
温い緊張感を漂わせながら、重森はそのまま、すれ違って消えた。
やけに神経が落ち着かない。胸騒ぎが止まらないし。
……あたしってば、意外と繊細じゃん。
途中、沢村とは廊下で落ち合った。生徒会室に向かう傍ら、どう話を切り出そうかと探っていたら、部屋に入った途端、唇を奪われる。
「ここに来ると、俺はダメだ」
あたしも、だ。
沢村と、何度もキスした。
テレビも漫画も我慢して、宿題とかプリントとか、嫌なモノばっかり開く毎日。そんな日常リアルを全て投げ打ってもお釣りがくる。
それほどこの時間……あたしもダメになるのだ。
外を通り掛かる人の声、物音。それをずっと頭の片隅で聞いている。
今までは周りの物音なんて耳に入ってこなかった筈だ。
肘がぶつかって痛いとか、この角度で首を上げたら苦しいとか、余計な事を考える余裕まで出てくる。キスなんて、それほど大したことでもない。
いつかの夜は……暖かくて、好い匂いがして。ただ、あの瞬間。何となく妙な気がしている。初めてのお前に一体何が分かるのかと突っ込まれたら、返す言葉がない。だからずっと何も訊かずにいるけど。
誰かが外を通る声がして、お互いにパッと離れた。
照れ臭い。というか、地獄的に恥ずかしい。
「あのさ、今日の……剣持の事だけど」
そこから、お互いが聞いた事を打ち明け合った。
「「やっぱり」」
折山ちゃんから聞いた一部始終、それは金持ち側の事情と似たようなもの。
「こりゃ、うまくいっちゃうな」
「同感でげす」
藤谷さんの困った話も聞いた。金持ち野郎に今でも未練タラタラだという。
沢村とギクシャクした時、あたしに向かって、「まだ未練あるの?沢村が可哀相」とか言ってたくせに、自分は何だよ。
でも……藤谷さんを見ていると、ラップ男の砂田とかいうヤツにもかなり親しく見せていると思った。
「藤谷さん、その金持ち野郎だけにベッタリな感じにも見えないけどね」と言ったら、何故か沢村がうろたえて、「藤谷は気が多いから、かなり誤解もあるし」と明らかに挙動不審。普通じゃない。
「別に、肩叩かれてるぐらいで、あんたを疑ったりしないけどさ」
「って、ちょっとは気にしてる?」
「全然♪」と吹かしておく。いい気になるな。
あたしは面接問答集を広げた。面接で必ず聞かれる質問。
〝最近読んだ本は?〟
はい、参考書です。
嘘くさー。あー、撃沈。
沢村は塾の課題を広げる。器用に弁当を喰らいながら……そこから話がどういう訳か、金持ち野郎の会社が関わっているプチ・ホテルの話題になった。
そんなんで勉強になるのかよ、と疑いながらも、あたしは頷いて聞く。
女子に大人気。アンティークでクラシカルな大人の雰囲気。
ルームサービスで出される料理が激ウマ。
「剣持が誘ってくれて、1回だけ行った事あるんだけど」
聞けば、年に数回、誰かの誕生日や記念日など、取り巻き軍団たちがワイワイ盛り上がる時は、いつもそこの部屋を使っているという。
誰だかは毎年彼女と一緒に行ってるとか、初めて行った時、高い酒を貰ってちょっとだけ飲んだ事があるとか。沢村は、嬉々として語った。
誘われて1度だけ、ユリコちゃんとは一緒に行ったらしい。
ミノリとは1度も行かなかったと聞く。
「どの部屋もすごくきれいだったよ」と褒めた。
そんな色々を、あたしは冷めて聞いている。ていうか、ドン引き。
ひがみとか、ヤキモチとか、じゃない。
頭に、そんな贅沢な場所をタダで使える!とワイワイ喜んでいるヤツらの顔が容易に想像できたからだ。まるで悪魔の晩餐会ぢゃないか。
都合のいい男子に囲まれて、使いたい放題、喜んで使っている事だろう。
藤谷さんは、海川にCDを投げたように、金持ち野郎にもそんな態度だろうか。ありえないと思った。
「剣持は気前もいいから、その折山って子も喜ぶんじゃないか」
気前がいいって、どういう冗談?それでも友達をアピールしてるつもり?
喜ぶ?それにも納得がいかない。
「折山ちゃんはどっちかっつーと悪いなと思うタイプだよ。もともとバイトやってるから、お金なんか持ってるし」
「って、持ってる桁が違うだろ」
「それは、そうかもしれないけどさ」
雲行きが妖しくなってきた。それを沢村も感じ取ったようで。
「俺と違って、あいつは結構な人気者だからな。捕まえとくのが大変かもしれないぞ」
あんた、まさかアホなの?
そうやって自虐を笑い混じりで来られても……冗談にしたい所だろうけど、人気者というより、捕まえないといけない浮気者と聞こえてしょうがない。
「人気者というなら、折山ちゃんだって人気者だよ」
「そのレベルが違うだろ。剣持の方が大多数知られてんだし」
こういう発言に沢村の本音が見え隠れする。
どうして沢村はこういう時、自分側の取り巻きのほうが立場が上だといわんばかりの言い方をするんだろう。まるで、剣持のような素晴らしい男子と偶然付き合えて、折山ちゃんのような普通の女子は世界一幸運だ、と聞こえる。
レベルが違う。自分たちのレベルが上。
優しくしてもらった事なんか唯の1度もありません。
そんな金持ち野郎のレベルがどれぐらいなのか、あたしには分からない。
同時に、沢村だって折山ちゃんのレベルをどの程度に思っているのか。
「まーねー♪藤谷さんなんかも結構みんなに知られて人気者だし♪沢村にも凄ぉ~く凄ぉ~く優しいみたいだから♪あたしもそのうちガッツリ仲良くなれるかもねっっ!」
試しにブッ込んでみた。ズバリ嫌味だけど。
「そうだよ。普段からもっと話してみろって」
いよーっ、気付いてねぇ。
それな、とか絶対言うもんか。
何であたしが自分からわざわざ!?と、こっちはブチギレかけた。
俺を通して藤谷のような人気者と話せて右川は幸せだ、の顔である。
とまぁ、いくらこっちが気に入らないジャンルの生き物だからと言って、折山ちゃんの恋路を邪魔する訳にもいかないし。とはいえ、気が乗らないなぁ。
自分で言うのも何だけど、あたしは引っかき回すのは得意だ。
だからぶっ壊せと言うなら、喜んで出張る。だけど、うまくまとめるというミッションには自信が無い。てゆうか、今までやった事が無い。
〝失敗しちゃいけないって、そんな決まりは無いんだし〟
〝そんなに嫌なら止めりゃいいじゃん〟
いつも有利な方にしれっと乗り換え。コロッと手のひら返しは当たり前。
あたしの得意技、今回はどれも厳しく該当しないのだ。
相手は折山ちゃんだ。
このミッション、失敗も逃げ出す事も、許されない気がする。
右川カズミ、未だかつて無い緊張感に苛まれている、でげす。
あたしは、折山ちゃんに。
沢村は、金持ち野郎に。
それぞれ連絡して、放課後に待ち合わせる手筈を整えた。
これから4人で会う事になる。
「ダブルデートだな。上手く行けば」
すぐに金持ち野郎から返信が来たと、知らされた。
あたしも、沢村も、今日は塾がお休み……沢村が居て良かった。
例え何が起きても罪は半分こ。
真面目にまとめる事に関しては、あたしよりも得意だ。何と言ってもこういうジャンル、色々な意味で、あたしより経験豊富なんだし。
生徒会室を出る時、またキスした。
沢村は、まるで体当たりみたいに襲ってきた。
背丈が、また伸びたような錯覚が襲う。やけに大きく感じて。
あたしの経験値もどんどん上がる。
放課後、2人で待ち合わせのスタバに向かった。

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