God bless you!~第13話「藤谷さん、と」
「俺ら、要る?」
〝モザイク〟という名のショッピングモール。
その中のスタバ。向かって道を行く。
放課後。剣持と、その折山という女子も入れて、4人で会う事になった。
少し前、本屋に用事があるからと、折山は先に独りで向かったらしい。
折山は悪い気はしていないらしい事を、剣持にラインで伝えたら、『マジで?マジで?これ、夢?』と、アンデッド&グール&ゾンビが踊るスタンプ祭りで、大喜びだった。
どういうセンスだ。そこまでの達成感は気が早い気もしたが、付き合うかどうかは別としても、この所のお互いのわだかまりは無くなる気がする。
場所は近所のマックではなく、そこからかなり離れたショッピング・モールのスタバに指定したのは不要な知り合いに出くわす事を避ける為でもあった。
少々遠い道のり、バスもあるけど、「金勿体ないし、まだ時間あるから歩こう」となり、途中メイン通り沿いから外れた緑道を行けば、この寒さのせいか出歩く人は少ない。
やたら太い樹木。陸橋の陰。とにかく暗いとこ。誰も居ないとこ。
白状しよう……自動的に狙ってしまう。
周囲を窺いながら、俺は右川のこめかみ辺りに軽くキスした。
右川がぶるっと震える。まるで、水に飛び込んだ子供みたいだ。
それを言うなら俺側は、狙いを定めて後ろから突き落とす時のスリルと似ているかもしれない。
途中のコンビニに差し掛かった時、「ちょっとコンビニに用あるから」という右川を店内に見送って、俺はスマホを覗いた。
タバコ片手のサラリーマン、缶ジュースで一服の屋外作業員、次から次へと場所を譲っているうちに、店の脇まで追いやられる。
俺を探して、右川が出てきた。その手には、ほかほかの肉まんが握られて……用って、それ?これからスタバなのに……とかって俺も半分もらったけど。
2人で肉まんを頬張りながら緑道を行く、アクエリアスを飲む。
「ねー、昨日のあれ。見た?」
「テレビ?」
「ぢゃなくて、ニュース。ってそれもテレビか。あのほら、女子だからって理由で減点とかいう」
「あー……医学部の」
「浪人生とかもアウトって奴。なんつーかさ、そういう困難にわざわざチャレンジしてやってんだから、現役より情熱パラメータ加点しろっつーの。ムカつくよね」
おまえに医学部は関係ねーだろ……喧嘩になると思って黙っておいた。
それより今は、剣持の事情だ。
「せめて塩谷とか永井あたりには、話しといた方がよくないか」
折山という女子の性格上、周りを固めとく方法で提案してみた。
2人が盾になれば、藤谷も剣持に堂々と言い寄る事はできないだろう。
「塩?永い?それ誰?」
俺から奪ったアクエリアスで喉を潤しながら、右川は顔をしかめる。
塩谷真理子と永井結衣。どちらも、藤谷と仲のいい女子。そして体操部。
折山とかいう女子も体操部だったらしいから気心も知れてるだろうと思った。
「無理だよ。種類が違うもん。その2人、どう見ても藤谷さん側だよ」
そうやって疑わしそうに語れるほど、右川は2人と絡んだ事ってあるのか。
そこに少々引っかかる。
ふと、いつも疑問に思う事を、今日は聞いてやろうと考えた。
「おまえさ、藤谷に妙に気遣ってない?」
「はぁ?あたしが?」
「かまってくれとかいう話で盛り上がるかと思ったのに、さっさと消えて」
「だって……あっちとは盛り上る感じが無かったから」
「それは、おまえが急にジャニーズ系とか言うから」
「つーか、本当はお笑い系でげす♪」
どっちでもいいって。
「あっちが、かまってとか言ってんだから、そういう共通項を突破口にしてさ」
「そこまでして盛り上がらなくて良くない?」
さっきは、そのうち仲良くなれるっ!と激しく宣言したくせに。
急に言ってる事が違うと思った。
俺だって、ガチで藤谷と親密になって欲しいわけではない。
ただ今より親しくなれば、藤谷にも仲間意識が生まれる。
俺と右川が別れると言いふらす事も無くなるだろうと思っての事だ。
ついでに、俺にまとわりつく事も消えるだろうから、一石二鳥だ。
とはいっても。
「もしかして……ああいう、藤谷みたいな女子、嫌い……とか?」
オブラートに包んだつもりが、はっきり出てしまった。
右川は、うーんと考え込んで、
「それを言われたら、嫌いと言えるほど知らない気もするけど」
「ほらぁ。だったら、マジちょっと話してみれば。意外と合うかも。好みも近い気がするし」
「えー全然違うよ」
嫌いと言うほどじゃない、とか言いながら一方、全然違うと言い切る。
矛盾が止まらない。
ふと、考えた。
2人が盛り上がる話題。
「おまえってテレビの話以外、他に何か無いの?」
女子特有の話題もあると思う。藤谷と共通の話題、その可能性を思った。
右川を怒らせるつもりはなく、ただ純粋に聞いてみたかっただけ。
しかし、右川はムッときて、「は?何それ」と足を止める。
「あたしの程度が低いって言いたいの?」
「そんな事言ってないだろ。訊いただけで」
「大体あんたさ、自分から何か話題を出した事ある?」
「わざわざ俺が出さなくても、そっちが色々聞いてくるじゃないか。俺はちゃんと答えてるだろ」
「あたしが色々聞いてるから、何とか会話が続いておりますが」
「俺が我慢して聞いてるから、何とか会話が続いておりますが」
外気に負けない、冷たい空気が流れた。
怒りのコロシアム、ここで開幕なのか。
が、が、しかし。
今日これからの事を考えた。おそらく右川も。
どちらからともなく付いた溜め息が、そこら中を白く漂う。
「「今日はケンカはやめよう」」
2人同時だった。
その後、お互い頷くのも同時だった。げんこつハイタッチ。
(殆ど右川は、猫パンチ。)
〝友達思い〟
そういう分野で、俺達は相性がいいかもしれない。
今は誰も通り掛からない、この道。周囲を窺って、また永いキスをした。
言い争った直後という勢い、俺は半ば強引に迫った。
そこからしばらく、2人離れず、お互いを眺めつつ、抱き締め合う。
どれくらいの時間、そうしていただろう。右川が笑顔を取り戻したのを見届けて、こっちも普段の冷静を取り戻し、元来た道に戻った。
車の多いメイン通りを行く頃には余韻も薄まって、「lyrical school、聴く?」「誰それ。どういうの」「ヒップホップ系。今のあたしの一押し」「これ食ってから」と俺はすっかり冷たくなった残りの肉まんを頬張り……こうして分け合ったイヤフォンで音楽を聞きながら、どちらからともなく自然な会話が始まる。
こんな時に他の誰かと出くわしたら、自分がどこか情けない顔をしていないかと、正直外を行くのが不安だ。
あれ以来、どことなく暴走気味で、溢れるままに自分をぶつけてしまう。
さっきみたいな……あんな所を誰かに見られたら、間違いなくバカップルだ。たまには気を引き締めないと。
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