God bless you!~第13話「藤谷さん、と」
★★★右川カズミですが……横滑りタイプ

最近、日常が悩ましいゼ。
コートか。ジャンパーか。
朝はとにかく寒い。
だがしかし、日中はコートを着るほど地獄的ではない。
え?夏日?!
かと思ったら、気温は急降下……もう、どうかしてる。
外は寒い。だがしかし、電車内も教室内も程よく空気は緩んでいた。
12月に入ったばかりの今日この頃。
慌ただしいとは程遠く、だがしかし、のんびり構えてもいられない。
いつものように仕切られたブース内で、あたしは鼻を噛み、リップクリームを塗って、目薬を差して、次に今日の課題を広げて。
そこへ、「はーい。こんにちは」とハルミちゃんがやってきた。
最近、ハルミちゃんとは仲良しだ。
ハルミちゃんは〝神聖かまってちゃん〟とかいう謎のバンドが大好きで、渡される音声には、英会話に混ざって、そいつらの曲が入っていたりする。
ついでに聴く。可愛い呟きと絶望的な叫びが交互に襲ってくる。
まさかの神曲。意外と好くて気に入った!
ハルミちゃんは、相変わらず勉強中は怖いけど、休憩時間は普通に穏やかに、色々話す。「何ていうか、突き抜けた男よ」とかって、ワイルドな旦那の話も、ちょこっとはしてくれた。
でも「写真見せて♪」と何度お願いしても、ハルミちゃんは「うふふ」と謎めいて笑うだけ。追求していると、すぐにこちらの彼氏事情に取って変わる。
話反らしたね?
今は騙されておくけど、いつか追い詰めてやろうと狙っている。
「これって、こないだ見学に来た男の子の事でしょ?」
ハルミちゃんは、あたしの彼氏レポートを、「何度読んでも面白いねぇ」と堪能していた。
これを書いた経緯は、「平仮名ばっかりだなぁ。もっと漢字を書かなきゃ」と、アキラにダメ出しされてムカついて、「もう、日本語がヤんなるよ。漢字とか嫌い」と、ハルミちゃんに愚痴ったら、「そしたらさ、彼氏の事を書いてみなよ。練習だと思って。漢字を使ってね」となり、辞書を片手に、こうなったら積年の恨みつらみを書いてやる!と燃えた。
「最後んとこ。いいヤツかどうかってとこ。いや普通のヤツだよって言いたいならさ、いま1つ説得材料が足りないね」と真面目に添削される。
その添削は、沢村の性格にも及んだ。
「彼は良いよ。誠実だし、挨拶もちゃんとしてた。本当に付き合ってるの?」
このあたり疑ってかかる点は、学校のヤツらと大差ない。
あたしの言いたい事が全然通じてないと思った。
こっちが口を尖らせていると、ハルミちゃんも首を傾げて、
「でもちょっと、右川さんの気持ちも分かるね。そういうデキた人間と関わる人の、複雑な気持ちが」
「でっしょう?さーすが、分かってらっしゃるぅ♪」
理解が早い。そして共感の余地がある。だからこの年代は好きだよ。
「1つ気になったんだけど、右川さんからは好きだと言ってないの?」
「うん」
「1度も?」
「うん」
ハルミちゃんは、「それ、ヤバいよ」と、意味深に足を組んだ。
「彼は、ひょっとしたら横滑りタイプかも」とかって謎めく。
どういう事かと訊ねたら、「純粋なソレとは違うかもしれない。相手の気持ちはどうでも良くて、自分が世話する事で満足しちゃってるとかね」
と、大人的発言。出ましたっ。
「あなたの世話が要らなくなったら、次に世話できそうなターゲットを見つける。病弱とか、大人しくてちょっと臆病な子とかね。周りにいない?」
沢村の周りにはそういう子は居ない。
どっちかというと元気で賑やかで、キツい感じの子が多い。
取り巻きの1人1人を思い浮かべる。そういや、ミノリも弱い女子というカテゴリーではない。ユリコちゃんは、どうだったかな。
「ま、いいでしょ。少なくとも、あの彼が誰かと、罪悪感を感じるほどの事件を起こすとは思えない」
だってさ。沢村センセイ、舐められてますけど。
「そういえば、そろそろクリスマスだね」
ハルミちゃんは、当惑と不穏を滲ませた。
「ふふん」と、あたしを上から下まで、舐めるように見つめる。気のせいか、ハルミちゃんには何でもお見通しのような気がする。んな訳無いんだけど。
「それよりハルミちゃん、あたし、とうとう再来週でげす」
と話題をそらしたら、
「そうね。とうとう再来週ね。とうとう来たわね」と、ハルミちゃんが呟いた。
そう、およそ2週間後、とうとう試験である。面接もある。
ハルミちゃんはレポートを畳んで、手元のファイルに仕舞う。
ここで様相が変わった。
「右川さん、授業を始めます」
らじゃ。
つまり、戦闘開始である。
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