God bless you!~第13話「藤谷さん、と」
★★★右川カズミですが……「はいサイテー」
クリスマスを20日後。
あたしの修道院2部試験を、およそ2週間後に控えた、この日。
気温5度。
いつかの夏日は幻か。寒さは日に日に強まる。校内、マスク率は8割を超えた。
1時間目の事である。英語の時間なのに、音楽の先生が入って来た。
もうそれだけでピンときて、
「え、自習?自習?」
「はい、席に着いて」
否定しない。という事は、やっぱ自習だ。その途端に、体温上昇!
「やり!」「神!」「あげ!」と、あちこちから声が上がった。
バカ永田も、「ハイハイハイ!」と、踊り狂っての大騒ぎになり、黒川から一撃喰らい、そんなこんなでクラス温度も急上昇する。
さっそく内職するかと塾の宿題を開いたそこに、
「こらこら。そんなに世間は甘くないぞ」と自習課題が配られた。
ですよね。
とはいっても、雑談はもうそこら中で始まる。
隣のヨリコは、辞書を開きながら、
「ねぇ、来週さ、松倉んちでお泊まりしょうって言うんだけど。カズミちゃんは無理だよね」
「う……ん、そだね」
試験までは殆ど毎日、塾に行くことになっている。
今日は、たまたまお休みだけど。
「だったら、どっかでご飯とかは?たまには息抜きとか、ダメ?」
それを後ろで盗み聞きしていた海川が、「駅前にさ、年末にサイゼリアが出来るよ」と、いきなりのタウン情報を寄越した。東スポ、降臨。
「それ知ってるよ」と、あたしが言うと、
「なんか、最近ネタにキレが無いよね」と、ヨリコもダメ出し。
「そんな事言っちゃっていいのかなぁ。進藤が破局間近というホットな話題があるけど」とか言い出した海川の暴走に、「え、ウソ。マジ。聞きたい、それ」と、あたしは前ノリで喰いついた。
「あたし身に覚えないんですけど。いい加減な事言うな。訴えるゾ」と、すかさずヨリコに一撃喰らって、海川は机に潰れる。
「スクープを捏造するとは、ジャーナリストの風上にも置けないね」
「海川は今日から、週刊文春てことで♪」
「あれ?それ朝日じゃなかったかな。捏造は」
「あれ?そうだった?新潮にしとく?」
「だったら僕、アエラがいいな」
「「東スポが贅沢いうな!」」
ヨリコと2人、同時に突っ込んだ。
その時、
「カズミちゃん、今ちょっといいかなぁ」
すぐそこの入り口に、1組の折山ナナエが来ている。
体操服姿だ。聞けば、1組は体育の時間で、次のチーム対抗まで時間があるらしく、ちょっと抜けて来たらしい。
「折山ちゃんが、そういうの珍しいね」と、ヨリコが言った。
「確かに」
サボるとか、フケるとか、抜けるとか、1番似合わない子である。
つまり、そこまでするほど大切な用事って事かもしれない。
「ちょっとお願い」と、あたしだけが廊下に呼ばれた。
かと思ったら、「ちょっと」と、さらにその先、お隣の教室前。
そこからさらに、「ちょっと」「ちょっと」と、とうとう外まで連れ去られてしまう。つまり、それほど内緒の話。
折山ちゃんとは最初、松倉を通じて話す間柄だった。
折山ちゃんは夏休みにスーパーでバイトをしていて、マックでバイトしていたあたしと距離が近く、その頃から松倉を介さずとも話すようになり、急速に仲良くなり、今に至る。
体操部で、修道院大学の推薦組だ。英文学部は最近推薦試験があった。
折山ちゃんも受かった。ヨリコも、海川も。
「あたしはとうとう2週間後だよー」
と嘆いたら、やけに生温い緊張感が漂った……ような。
「カズミちゃんは大丈夫だよ。会長さんだもん」
折山ちゃんが、あたしの肩をぽんぽんと叩く。
励まされている、ではない。落ちる訳ないから平気だよ、と言わんばかり。
もう大学2部が甘く見られているとしか。
折山ちゃんは、身長160センチ。ちょっと太め。ぽっちゃりさん。
すごく太ってるという訳じゃないけど、3年になって体操部に出なくなってから体重が増えた。と、本人が言う。
確かに夏と比べても、ちょっと丸くなった気がするね。
「体重が止まらないの。もうやだぁ」と体操服の上から腕の辺りをつまみながら、泣きベソをかいた。
目がクリッとして、愛嬌のある顔立ち。加えて、体が柔らくて、ぽちゃぽちゃして、甘い香りのシャンプー、まるでマシュマロ……悶絶。
こりゃ、マニアにはたまらない。美味しそうで惚れてまうやろ。
授業中だってのに、3年クラスはどこからも賑やかな嬌声がする。
どこもかしこも自習中らしかった。
誰かが窓を開けたのか、一瞬だけ冷たい風が額を抜ける。体操服姿の折山ちゃんは両腕を抱いて縮こまった。
相談があると言われて、何事かと思っていたら、
「カズミちゃんて、剣持くんと話した事ある?」
いきなり、これだった。
「ケンモチクン?トムヤムクンの友達?」
にゃははは!
しばらく独りでウケてたら、「カズミちゃん、真面目に聞いて」と、折山ちゃんに叱られた。
「そんなやつ知らないよ」
「でも、沢村くんと、かなり親しい人だよ?」
ケンモチクンケンモチクンケンモチクン……。
〝くん〟というからには男子だよね。沢村の取り巻きのうちの1人かもしれない。バレー部にそんなのいたかな?と思い浮かべてみる。
あたしが知っているのは、ノリくんは別として、ストレート感性悪いラップ男と、キャプテン野郎、黒川は置いといて、永田のバカも潰しておこう。
あとは金……。
ピンときた。
金は金でも、重森ではない。
「思い出した。そいつって、金持ちでしょ」
折山ちゃんはポカンとした。
「確かにお金持ちみたいだけど」と首を傾げる。
〝けんもち金持ち〟と、あたしは覚えていた。家も車も豪華らしい。そんな話を聞いた事がある。確かどっか別のクラスの男子。
そいつは日サロにでも通っているのか、いつ見ても真っ黒に日焼け。グループの中でも中心的な位置にいる男子だったように思う。
普段からやたら声がでかいと感じていたけど、永田ほど口数は多くないからウザいとは言われず。もっと言うと、ウザいとかキモいとかイキってるとか、そんなネガティブな批判を与えてはいけないという暗黙のルールが決まっている……そんな階層に位置する男子だった。
見た目だけで言うと、俺ってイケてる?そんな勘違いが激しくて、それだけで不愉快のお釣りがきそうな男子である。当然と言うか、全く交流は無い。
「実は、その剣持くんから付き合って欲しいって言われて」
「ええっ!?」
かなり驚いた。
「何それ。どういう絡み?キャラも何も、全然違うじゃん」
こんな事は言いたくないけど、それを深刻に捉えたら、即、笑いの的になるという陰謀じゃないか。折山ちゃんは、そんな罰ゲームの標的にされちゃったのかと疑った。お軽い感じで。
聞けば、3年になって割りとすぐ告白されていたらしい。
それにも驚いたよ。いつの間に。
しかしその後何の音沙汰も無かったので、「返事しなくていいのかな」と迷いながらも、折山ちゃんはそのままにしてしまったという。
その後、誰かと付き合ったとか別れたとか、いや他校に彼女が居るんだとか、金持ち野郎にはそんな不埒な噂話が続いた。あれきり何も言われないという事は、もうすっかり忘れているのかも。折山ちゃんはそう思う事にしていた。
ところが12月に入ってすぐ、「いつかの返事、まだ待ってても、いいかな」と囁かれたらしい。
「剣持くんは、誰でもいいから相手を探してる……だけなのかな」
卒業が近いから。
あるいは、12月のクリスマスに間に合わせて。
折山ちゃんには、どこか疑う気持ちもあるようだ。
その理由、あまりに長く放ったらかし過ぎたから。
あたしは憤慨する。
「ですよねーって感じだよ。待たせ過ぎて、男子としてヤバいでしょそれ」
その間たぶん他の女子にも声を掛けてる。
未だ相手が見つからず?あるいは相手がコロコロ変わり?
「今は、誰も居ないって言ってたけど」
そこへ、折山ちゃんがポンと思い出されただけなんじゃないか。
「だから剣持くんが、今どういう状況で、私に対して本当はどういう気でいるのか、本当の所が知りたくて」
「で、折山ちゃんは、どうして欲しいの」
「え?」
「迷惑だから止めてくれ、とか。とにかくブッ飛ばせ!とか。生徒会で公開処刑にしろ、とか」
あたしは腕まくりしてみせた。あのレベルなら、作戦次第ではボコボコに出来る。肉体的にも精神的にも。うひひ。
「あ、そういうんじゃなくて。違うよ違うよ」と、折山ちゃんは両手をバタバタさせた。
「カズミちゃん、そういうケンカは無し。本当に無しだからね。お願いね」と念押しまでされる。
あたしって、そんなに危険物?
折山ちゃんは、「どう言えばいいかなぁ」と、そこから結構長い時間を掛けて、答えを探った。
嫌で仕方ないとか、最初から断る気なら、その反応は無い気がする。
こっちの予想以上に、迷ってる。
とはいえ、
「悪いんだけどさ、あたしその金持ちの事、よく知らないんだよね」
「カズミちゃんは無理だろうけど」
折山ちゃんは一瞬戸惑いながら、
「沢村くんなら、何か知ってるんじゃないかと思って」
そういう事か。
「つまり、もうちょっかいを出さないように、沢村から一発ブチ込んでくれと、そういう事だね」
「カズミちゃん、も一回言うよ。ケンカは無し。そのジャンルは忘れよ?」
「本当にね。頼むね」と、またまた念押しされた。
あたしはどんだけ劇物扱いなのよ。
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