俺がきみの一番になる。

お父さんとの二人暮らしにはだいぶ慣れたけど、この土地にはいまだに馴染めていないような気がする。

そういえば……。

さっきは本田君に気を取られて忘れてたけど、どうして今さらあんな夢を見ちゃったんだろう。

もう思い出したくない、過去の出来事。頭に浮かんでくるのは、大好きだった人の笑顔。

あんなに最低な別れ方をしたのに、しつこいくらいにまだ引きずってしまっている。

もうどうにもできないってわかってはいるけど、心の中に住みついて消えてくれない。

「はぁ」

気分がどんより沈んでいく。ネガティブな自分は大嫌いで、昔はなにがあってもへこたれたりしなかったのに、メンタルが弱くなったなぁと思う。

「ダメダメ、こんなんじゃ!」

喝を入れたところで、自宅の部屋の前にたどり着いた。玄関のドアを引いてみるけど、鍵がかかっていて開かない。

当たり前か、と一人で小さく苦笑い。

「ただいまー」

そう言っても返事はない。

四人姉妹の末っ子の私。つい一年前までは、お姉ちゃんたちと一緒にみんなで暮らしていた。

でもお父さんの転勤が決まったことがきっかけで、家族みんながバラバラにならざるを得なかった。

一番上のお姉ちゃんは社会人として働いていて、二番目と三番目のお姉ちゃんはそれぞれ大学生で一人暮らしをしている。

お母さんは私が中学一年生の時に病気で亡くなった。

思い出すとつらくて涙があふれる。お姉ちゃんたちと暮らしていた時は気がまぎれたのに、一人でボーッとする時間が増えるとつい思い出しちゃうんだよね。

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