俺がきみの一番になる。

時々相槌を打ちながら聞いてくれる咲希。

「でも……無理だった。いつの間にか、好きになってたの」

ようやく自分の気持ちに素直になることができた。そうしないとこの苦しさを受け止められないから、もう逃げるのはやめる。

「コントロールしてどうにかできるもんじゃないよ。亜子の場合、好きだって認めることができただけでも一歩前進だね。一度のツラい経験だけで、この先の人生を決めちゃうのはもったいないと思う。つまりなにが言いたいかっていうと、応援してるってことだよ」

「咲希……」

ううっ。

「ありがとう」

でも、自信がない。

私がそうだったように、そして、過去に朱里ちゃんが好きだった草太のように、人の気持ちは変わるんだ。

草太の気持ちは、今どこにあるんだろう。

「おーい!」

遠くのほうで太陽が私に手を振っていた。太陽は男子数人といたけど、一人だけ輪から抜けてこっちへ歩いてくる。

「どうしたの? 太陽」

お風呂上がりなのか、体から湯気が出ている。まだ濡れている髪の毛から水滴が落ちた。

「そのアイスうまい? ひとくちわけて。うまかったら、俺もそれ買うから」

「あ、うん。いいよ、はい」

アイスが乗ったスプーンを太陽の口めがけて差し出す。

「サンキュー」

そう言いながら、太陽は大きな口を開けてアイスを食べた。

「うまっ。もうひとくちわけて」

笑顔でそんなふうにお願いしてくる太陽。私は昔からその笑顔に弱い。

「もう、仕方ないなぁ。はい」

「やった」

太陽のためにもう一度アイスをすくってスプーンを差し出した。

特になんの意味もなくやったことだったけど──。

「ねぇ、あの二人ってまだ付き合ってたの?」

「いや、別れたはずだよ?」

「なんかいい感じじゃない? 元サヤ?」

かなりの注目を浴びてしまい、たくさんの視線を感じた。わ、恥ずかしい。咲希に接するのと同じようにしちゃってた。

私の中で太陽はすっかり友達みたいな感覚だから。

「うまかった。俺もそれ買ってくる」

太陽は周りの視線なんて気にもせずに、笑顔で手を振り、去って行く。

自由というか、マイペースというか、太陽らしくて笑ってしまった。

「今の人がずっと忘れられなかったっていう人?」

「え? よくわかったね」

「亜子を見てたらすぐにわかったよ」

「そんなにわかりやすいかな?」

「まぁね。でも、そこがいいんじゃないの? さ、そろそろ部屋に戻ろっか」

「そうだね」

「亜子!」

立ち上がったところを、後ろから大きな声で名前を呼ばれた。

振り返らなくてもわかる、草太の声。咲希はニンマリ笑うと「先に戻ってるね」と私に言い残して、歩いて行った。

「もう部屋戻んの?」

「ううん……まだ」

曖昧になっていたけど、草太とは昼間のテーマパーク以来だ。

『迷惑かな? 俺のこと』

『迷惑なら、もうやめる』

頭の中にこだまする。

「や、めないで……」

「え?」

「迷惑じゃないよ……草太のこと。だから……やめないで」

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