俺がきみの一番になる。

「……じゃあな」

草太も戸惑いながら手を振り返している。

正直、朱里ちゃんには敵わない。あれだけかわいく笑われたら、誰だってドキッとするよ。

朱里ちゃんは友達と行ってしまった。残された私と草太の間に、再び気まずい空気が流れる。

「おーい、草太! そろそろ消灯時間だぞ。戻んねーと、部屋に見回りこられたらやべーぞ!」

「おまえらだけ先に戻ってて」

野球部の友達にそう言い、私のほうを向く。なにか言いたげなその瞳。きっと、言いたいことはたくさんあるんだと思う。

なにもかもに自信がなくて、パッとそらしてしまった。

「じゃあ、亜子も戻るね……」

「待てよ、まだ話が終わってないだろ」

「で、でも、戻らなきゃ」

売店にいた生徒たちが慌てて部屋へ戻って行くのを見て、焦る。こんな状況でちゃんと話せない。それにたとえこんな状況じゃないとしても、話せるわけがない。

「亜子ー、じゃあな。おやすみー! アイス、マジサンキュー!」

「え? あ、おやすみ!」

急ぎ足で部屋に戻って行く太陽に向かって小さく手を振る。

「こっちきて」

力強く私の腕を掴んで、草太はどこかに歩いて行く。売店から離れて、大浴場の前を通り、非常階段までやってきた。

そこには誰もいなくて、辺りはシーンとしている。

「ねぇ、戻らなきゃ」

「こんな中途半端なまま寝れんの?」

「……っ」

「俺は寝れねーよ」

< 160 / 256 >

この作品をシェア

pagetop