俺がきみの一番になる。
「……じゃあな」
草太も戸惑いながら手を振り返している。
正直、朱里ちゃんには敵わない。あれだけかわいく笑われたら、誰だってドキッとするよ。
朱里ちゃんは友達と行ってしまった。残された私と草太の間に、再び気まずい空気が流れる。
「おーい、草太! そろそろ消灯時間だぞ。戻んねーと、部屋に見回りこられたらやべーぞ!」
「おまえらだけ先に戻ってて」
野球部の友達にそう言い、私のほうを向く。なにか言いたげなその瞳。きっと、言いたいことはたくさんあるんだと思う。
なにもかもに自信がなくて、パッとそらしてしまった。
「じゃあ、亜子も戻るね……」
「待てよ、まだ話が終わってないだろ」
「で、でも、戻らなきゃ」
売店にいた生徒たちが慌てて部屋へ戻って行くのを見て、焦る。こんな状況でちゃんと話せない。それにたとえこんな状況じゃないとしても、話せるわけがない。
「亜子ー、じゃあな。おやすみー! アイス、マジサンキュー!」
「え? あ、おやすみ!」
急ぎ足で部屋に戻って行く太陽に向かって小さく手を振る。
「こっちきて」
力強く私の腕を掴んで、草太はどこかに歩いて行く。売店から離れて、大浴場の前を通り、非常階段までやってきた。
そこには誰もいなくて、辺りはシーンとしている。
「ねぇ、戻らなきゃ」
「こんな中途半端なまま寝れんの?」
「……っ」
「俺は寝れねーよ」