俺の彼女は、キスができない。
ガチャ。
図書室のドアが、音を立てて、開く。
入る前に誰かいないか確認してから、と。
そう思って、図書室を見ると。
誰も、いない。
さっきの人影は、気のせい?
なーんだ。気のせいか。
と思って、図書室に足を踏み入れたとき。

「キャッ!!」

自分でも聞いたことのない自分の声が、図書室に響いた。
それと同時に、ガチャリとドアが閉まる。
何!?何なの!?
誰かに押し倒された?
目を開けると、そこには。

柚希が真っ赤な顔をして、私を見ていた。
柚希は、倒れた私に覆い被さるようにして、私の両手を床に押し付けていた。
そのせいか、身動きが取れない。

「ひ…ゃ………ぁ………っ…」

またしても、聞いたことのない可愛らしい声が出る。
私の首もとを、柚希にキスされたり、舐められたり。
まさか、高1でこんな経験をすることになるとは。
予想もしていなかった。

「ちょ………待っ……て…っん……」

嫌だ。恥ずかしい。
やめてよ、ゆっくん。
でも。
どうしても、嬉しいと思ってしまうのは、ダメ……?

「離れ……て…よ………や……ぃや」

私の両手を掴んでいた柚希の手が離れ、床に手をついた。
嬉しいのか、恥ずかしいのか。
もう、ごちゃごちゃして、分からないよ。
そう思ったとき、やっと柚希が離れた。
そのとき、私はどこかで寂しいと感じた。

「なん、で……?ゆっ………くん…」
と口元を隠しながら、言う。
「悪い。つい、お前が欲しくなって」
私が、足りないの?
私……不足なの?
「そんなに、欲しい………?」
と言うと、柚希はコクンと頷いた。
そういう仕草が可愛い。
愛しくなる。
私は、その気持ちに応えるようにゆっくんの首に腕をまわし、顔をゆっくんの首筋に埋めた。
そして、
「欲しいって思うのはね、ゆっくんだけじゃないんだよ?」
と呟いた。
私だって、欲しいんだから。
自分だけじゃないって、分かってよ。
と言ったとたん、柚希の顔が赤くなった。
「お、お前も、欲しい、のか………?」
そう聞かれた私は、ドキッとした。
私、もだよ。
「そう、だよ。ゆっくんがね、欲しいの。同じ気持ちだよ」
ゆっくんが欲しいのは、事実だ。
けれど、
「私たち、残念だね。ゴメン……ね…?ぐすっ…」
ゆっくんは、私の気持ちに気づいてくれたのか、抱きしめてくれた。

私たちは、キスができない。
なぜなら、私が治そうにも治せない虫歯の病気にかかっているから。
だけど、ゆっくんには理由を言っていない。
なんとか、誤魔化してる。
だって、好きな人が病気なんだよ?
ゆっくん、それを聞いたら、苦しむよね?
だから、言いたくない。

ゆっくんを、守りたいから。
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