俺の彼女は、キスができない。
ゆっくんとのクビキス。
それは、それは、大切な宝物。

けれど。
「お前、マジで言ってる?」
いきなり、そんなことを言われた。
なんで、そんなこと言うの?
ゆっくんが、分からない。
「え?」
「だから。大事な話があるんじゃなかったのか?」
え?ゆっくんは、クビキスしてくれないの?
どこか寂しく感じた。
「あ、うん。私の病気のことで」
と言いながら、ゆっくんから離れた。
いつの間にか、外れていた第一ボタンを止める。
立ち上がった柚希に、向き直った。

そして、私は。ついに病気のことを話し始めた。
「私の病気はね。誰もかかったことがないみたいで、私が初めての患者なんだって」
柚希にニコッと笑うと、柚希は複雑な顔で。
「お前が。初めて…」
俯き、ボソリと口に出した。
「うん。だから、先生も父母も、どうしたらいいのか分からないまま、悪化していった。中学生の頃からは進行が止まってるけど、処置の手術ができなくて。そのままなの」
「そうだったんだな。見つかったのは、いつなんだ?」
意を決したのか、顔を上げた。
その顔を見て、自分の顔が少し火照る。
「え、でも…」
答えたくても、柚希の複雑そうな顔が気になって、答えられない。
「頼むから。答えてくれ」
「う、うん」
柚希の圧に負けてしまった。
圧というか、なんか怒ってる感じ。どうしてだろ。
「私の病気が見つかったのが、柚希が彼氏になった後なの。隠してて、ごめん」
頭を下げる。
「今まで、ずっと隠してきたのか」
「そうなの。ごめん」
深く頭を下げる。体が固まる。背中を、冷や汗が伝う。
この状況が、なぜかツラい。
「ずっと独りで、抱えてたんだろ?」
「え?あ、うん」
いきなり聞かれて、返事に戸惑う。
どうして、そんなことを聞くの?もしかして、怒ってるの?
そう思っていると、いきなり手を引かれた。
「抱えんなよ。俺を頼れよ。このバカ…」
そう耳元で言われ、我に返ったときに気付いた。抱きしめられていることに。
心臓の鼓動が、速まっていく。
私は泣きながら、こう言った。



「ごめんね。ゆっくん。怖くて、言えなかった。それに、傷付くと思ったから。ごめんっ」



こうして、私は。
ついに病気のことを、ゆっくんに告白した。
< 61 / 62 >

この作品をシェア

pagetop