だから何ですか?Ⅲ
「っ・・・」
ほらな、思いだしただけでコレだ。
「チッ・・・」
苛立って外した眼鏡をデスクに雑に投げた音が大きく響く。
ここが職場でなければ、他人の迷惑をかうような場所でなければ目の前の物を薙ぎ払ってしまいたい程の苛立ちの衝動。
それを抑え込むように親指を噛んで、苛立ちの元となる記憶を掻き消すような痛みを自分に与えるのに。
『好きですよ____』
「っ____」
一瞬にして込み上げてきた嫌悪に『ヤバい』と反射的に席を立った。
口元を抑えて足早にフロアを抜けて、駆け込んだのはいつも驚くほど綺麗に清掃されているトイレで、まっすぐに個室に飛び込むと込み上げていた嫌悪を吐きだした。
誰も使用していなくてよかった。
これ以上誰にも余計な気遣いをしてほしくない。
『大丈夫ですか?』なんて言葉が一番言われたくない。
聞きたくない。
聞かれても答えなんか一つしかない。
「っ・・・・・大丈夫じゃ・・ねぇ・・・」
吐いて楽になるのは身体ばかり。
心の芯はもうずっと嫌悪に満ちて病むばかりだ。
少しばかり楽になった身体をふらりと壁に寄りかからせ、震える手で水を流して空笑い。
吐いたと言っても視界に捉えたのは水分ばかりだ。