だから何ですか?Ⅲ
確かに距離を詰めて壁に追いやったかもしれないけれど、それは特別こちらから力で制してのそれじゃない。
ただ歩み寄っただけ、それに後退し壁に身を追いやったのは亜豆本人でしかない。
壁にめり込むほど背中を張り付けているのだって『俺が詰め寄ってきているから』と言う理由を掲げての行動だろうけど、それすらも理由としては緩すぎる。
亜豆を捕まえてもいなければ壁に張り付く亜豆の両サイドを塞いだわけでもない。
逃げ道なんていくらでもあって、むしろよく逃げないもんだと突っ込んでやってもいい程だ。
まぁ、それを突っ込んだような今この現状だけども。
突っ込まれてしまえば、自分の不利な事実への切り返しに迷って不動になる亜豆の愛らしい事。
だからさ、
「お前に嘘や駆け引きなんて向いてねぇんだって」
「っ・・・」
この口は素直を弾くしか向いていない。
必死に心に背こうとするからぼろが出る。
俺への呆れる程の好意を口にするしか向いてねぇんだって。
今この瞬間だって悔しそうに顔を歪めるくせに『逃げる』なんて選択肢が出てこない。
だからこそ、これ良しと感触のいい唇に指先で触れてにっこりと覗き込むと、
「・・・俺が欲しいって認める?」
「っ_____」
ほら言って?と促す様に、唇から人差し指をなぞり下ろして首を走り鎖骨に触れて、そのまま言葉を引き出さんばかリに今度はゆっくりと指先を引き上げた。