だから何ですか?Ⅲ
欲しい筈の視線はこちらに向かないというのに、欲しくない相手のそれはどこか哀れみやら呆れも混じえられてこちらに向いて、
「どれだけ親しい関係かは分からないけれど、これから出勤という相手を会社前で張って時間を割くというのはいささか社会性モラルに反するんじゃないかな?
それに・・・君だって貢献すべき会社や受け持った仕事があるんじゃないのかな?それなのに・・・こんなところで現を抜かしていたら築き上げた信頼や居場所なんて一瞬でなくなってしまう事だってあるんだよ?」
低姿勢での物言い。
それでも結局は『邪魔だ失せろ』の綺麗版だろ?
その後の言葉だって親身な忠告のようでいて『ダメ男』だと貶されているようにだって取れる。
弾かれる言葉に内心はいちいち煮えくり返っていても表面は無表情でそれを覆って、最終的にはにっこりと笑顔を作って貼り付けた。
「おっしゃる通り、御尤も。おたくの秘書の貴重な時間を割いてしまって申し訳ない。でも・・・今日は、彼女の忘れ物を届けに来たっていう善意の訪問だったんですけどね」
「善意の訪問という割には随分と彼女が追い詰められていたようにも見受けられたけど?」
「・・・そこは、あなたには立ち入れない俺と彼女の関係と事情がありますから」
「・・・・なるほど」
心では中指を突き立て、『分かったら邪魔すんじゃねぇ』とばかりの悪態に満ちる。
そんな俺は亜豆が言うように頭がおかしいのだろうか?