だから何ですか?Ⅲ




ドクンと強く脈打って、周りのリアルな音よりも電波を伝う向こうの音の方を鮮明に拾い上げてしまうほど意識の集中。


そんな俺の状態を無言の内に理解したらしい三ケ月がフッと小さく笑ったような息遣いを響かせると、



『どのくらいで来れる?』


「今すぐ行く」



そんな返答を口にした時には壁に根を生やしていた体は俊敏に動き、風を切って歩みながら通話を断ち切り携帯をポケットへ。


それでも一瞬は立ち止まって振り返ったのは亜豆の存在に後ろ髪引かれて。


でも、ここで堂々巡りの葛藤を抱いて亜豆に対峙するより、足りないピースを埋めることの方が重要で必要で。


そう思ってしまえばすぐに止めていた歩みの再開。


歩みというよりもすでにほぼ駆け足だ。


ここから菱塚の会社までは車で30分ほどか?


タクシーを拾うにも少し先の駅まで行く方が確実だろう。


タクシーに乗って落ち着いたら亜豆にはメールをしておけばいいだろう。


【待ってなくてスマン】と。


きっと、あんな風に拒絶する癖になんだかんだ姿を見せる筈だから。


わざわざまたパンでも買って、呆れたような表情でそれを投げ渡してくるつもりであっただろうから。



< 195 / 381 >

この作品をシェア

pagetop