だから何ですか?Ⅲ
高城の敷地を駆け抜けて立派な看板を横目に大通りへの道へと踏み出すと、一番最寄りの駅へと足を向けて息を切らす。
オフィス街のこの時間帯はあまり人が多いとは言えない景観で、ちらほら見かける人間はみんなスーツを纏った社用や営業の人間だろう。
面白い物で皆歩きながら携帯で話しているかタブレットを眺めているか。
今も横をすれ違った中年の男は携帯で話しながら『ありがとうございます』と電話の相手に頭を下げて歩いて行った。
きっと俺の存在などまるで意識も記憶もされていないだろう。
そうやって、この仕事にストイックなオフィス街で敢えて俺の存在に意識を置いてくる人間などいないと信じて疑いもかけていなかったのに。
あともう少しで目的の駅前。
視界にも大きくも小さくもない駅を捉え、ロータリーに何台か待機しているタクシーを確認し僅かに口の端を上げ気が緩んだ瞬間、不意にヒョイと横から俺の前に飛び出してきた人影。
それには当然走っていた足を止めざるを得なくて、走って乱れた息を響かせ改めて視界にまともに捉えたのはどう見てもオフィス街に似つかわしくないと感じる不審なフード男。
フードの下にはさらに顔を隠す様にキャップが被られ、明確な口元はどこか下品にニヤリと笑っている。
覗く髪の脱色した感じや肌の感じからしても若い男だろう。