だから何ですか?Ⅲ
そんな俺の手に『はい』と渡された名刺を自分の前にまで移動させ、何の気なしに確認すれば会社名よりも個人名の方に意識の集中。
えっ?と思った瞬間には全てが静止。
身体も思考も。
そんな俺の背後で『ねぇ、分かる~?』なんて声をかけてくる雛とはすでに存在する空気が違った。
雛の声なんか遠くに聞こえる。
徐々に遠のいて何を言っているか分からない程に。
代わりに煩く鳴り響くのは自分の心臓の音で、体の奥が熱いのか冷たいのか。
どういう事だ?
何故?
いや、ちょっと待て、本当にこれは俺が思っている人間と同じ?
でも、そうそう同じ名前があるとは思えない。
さらりと読める名前じゃない。
そんな事を思っているまさに背後で、
「ねぇねぇ、これって何て読むと思う~?私読めなくって」
そんな言葉ばかりは都合よく明確に耳で聞き取るのだから自分に呆れる。
「・・・・・っ・・・りお、」
「えっ?」
「凛生・・・・亜豆 凛生」
「へぇ・・・凛生って書いてリオって読むんだ?よく読めるねぇあんた」
当たり前だ。
読めない筈がない。
むしろ・・・・ずっと呼びたかった名前がこの名刺に刻まれているんだ。