星空電車、恋電車
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バレンタインデー当日、私のバイト先に京平先輩がやってきた。

「あー、本当に来たんですねーーー」

「来いって言ったのお前だろっ」

「いえ、本当に来るとは。しかも当日に。・・・ちょっと待っててください」
顔を赤くした京平先輩に笑ってしまう。

私のバイト先は恵美さんの叔母さまが経営するカフェ内にある洋菓子をテイクアウト用に販売しているコーナーだ。
ちなみに恵美さんはカフェの方でバイトをしている。

今日はバレンタインデー当日とあってさっきまでのテイクアウト販売の混みかたは凄まじかった。

午前中で生菓子は売り切れ。午後に残っていたのはクッキーなどの焼き菓子が少しだけ。それもすぐに完売してしまった。夜になった今は予約品の引き渡しのみという状態になってやっと落ち着いたところだった。

ちょうどお客さんの切れ目だったので一緒に働いている子に声をかけて取り置いていた義理チョコを取りにロッカーに向かう。

店内に戻ってくると京平先輩はぶらぶらと商品棚をのぞいていた。

「はい、義理チョコです。数ヶ月前は本当にありがとうございました」
にっこりと営業スマイルで紙袋を差し出した。

「ふーん」
そんな私を京平先輩は上から下までまじまじと見てくる。

もしかして、あなたが気になっているのはこのユニフォームですか。

「似合わないのはわかってますから何も言わないで下さい。ひと言でもそれに触れたらそのチョコ没収しますよ」

ギロッと睨むと、京平先輩は開きかけた口を慌てて閉じた。

わかってる。似合わないのは十分承知しているんだ。

恵美さんのいるカフェの方はシンプルな白のブラウスに腰下エプロン。エプロンのカラーはワインやブラウン、モスグリーンと好きな色を選べる。いわゆる落ち着いたカフェスタイルだ。

なのに、こっちのコーナーは
・・・白のブラウスにネイビーのフワッとしたキュロットスカート、そしてレースがふんだんにふんだんにふんだんに使われたひらひらしたエプロン。エプロンの右下に入った可愛らしい天使の刺繍がポイント。
おとぎ話に出てくるメイドかどこぞのメイド喫茶を思わせるような可愛らしいデザイン。

もちろん小麦色のバンビの私が似合うはずがない。

初めはもちろん抵抗した。
恵美さんと同じカフェの方で働きたいと言った。あああ、言ったのに~~~~~。

結局は負けたのだ。
どうしてもこっちで働いて欲しいと言うここのオーナーである恵美さんの叔母さまの泣き落としに。

そうして9ヶ月もこれを着ていたらもういろいろ諦めたし、無の境地も学んだ。


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