星空電車、恋電車
イケメンらしき学生が配置されているポイントを避けながら探し歩いていると、
「みなさーん、説明はどこに行っても基本変わりませんよーホントですっ。そろそろ移動を終了して下さいーお願いしますぅ」と再び主催者の悲壮な声がしてあちこちからクスクス笑いが漏れていた。

どこの輪にもイケメンがいるんだもの。女子たちはみんな自分の好みのイケメンを探して巡回しているらしい。
私は落ち着いたところがいいんだけど、なかなか見つからず、一段上がった場所からくっと背伸びをして辺りを見回した。

どこか落ち着いたポイントはないものかな。
西側の人々の頭の向こうの輪の中心に視線を向けた途端、私の身体は硬直した。

ここにいるはずのない人の姿が。

ーーー樹先輩だ。

望遠鏡をのぞき込む学生のサポートをしている人の横顔に見覚えがある。
髪型は違うし、少し痩せたような気がするけれど、ひとの良さそうな優し気な横顔。
陸上選手としては細身だったけれど、こうして一般人の中に入ればやっぱり周りの男子学生よりも一回りいい体格をしている。

懸命に望遠鏡のスタンドの固定をするために俯いて作業しているから見にくいけれど・・・でも、あれは樹先輩で間違いない。

この私が見間違えるはずがない。

まさかこんなところで樹先輩に出会うなんて。
俯いていた顔を上げて次の作業をしながら隣にいる女子メンバーと何か会話している樹先輩の姿に昔の記憶が蘇る。

もう会わないと思っていた。
会いたくないと思っていた。

視線を外そうと思っているのに外せない。
ドクンドクンと自分の心臓の音が次第に大きく耳に響いてくる。

本物の樹先輩だ。
そこには確かに少し大人になった樹先輩がいた。

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