星空電車、恋電車
「そういうのいいんです。今の私にはいらないって改めて気付いたんです」

京平先輩はなぜか一寸の間黙って何かを考えているようにきゅっと唇を結んでいた。
そうして口を開いたと思ったらいきなりテーブルの端で自分たちの世界に入っている男性の方に声をかけていた。

「おい、坂口。その目の前にある残った料理の大皿、こっちに回して。お前らもう食わねえだろ?」

そうしてなぜか余った料理のお皿を自分の前に集め始めたのだ。
少しずつ料理の残ったお皿を目の前に並べてドリンクのお代わりを私の分まで注文してくれたのだけれど。

「京平先輩がよく食べる人だっていうのは知ってますけど、さすがにこれは多くないですか?」

一皿に残った量は少なくても全部合わせたら結構な量になる。

「何言ってんだよ、水口も一緒に食べるんだよ」
「ええ?」

何言ってんだ、この人。

「忘れたとは言わせない。夏合宿の夕飯、残したら作ってくれた人に申し訳ないってみんなで必死に食べて、それでも食いきれなくて。最後まで残って食ってたのが俺たちだろ」

「ーーーそんなことありましたね」

ええ、覚えてますよ。
最後まで残って頑張って食べたのは京平先輩と私、それとーーー樹先輩だ。

「私、もう体育会系じゃないんで、そんなに食べれませんし、食べた分動かないと恐ろしいことになっちゃうんですけど」

「いや、水口なら食べる。こんなに残していいと思うのか?!」

「そりゃ、残すことにはかなり抵抗ありますけどー」

「いいか、お前はここに男を探しに来たわけじゃない。しかし、他の女子は出会いを求めてきてるんだ。そんな子たちに外聞を気にせず残さずガツガツ食えと言えるか?言えないだろ?だから、お前が食え」

は、はああああああ?

「---バカでしょ、センパイ」

私が頷いてごもっともですとでも言うと思ってんのか、この筋肉オンリーオトコがっ。
私だって年頃の女子なんだぞ。

「今、お前俺のこと脳筋とか全身筋肉野郎とか思っただろ」
京平先輩の目が細くなった。

「当たりです」
その通りでございます。言い方が違うだけでほぼ間違ってない。

「仮にも先輩に対してその態度。なんて失礼な奴だ。罰としてスクワット20回を3セットだな」

・・・やっぱりバカでしょ。
だいたい合コンに来て何が悲しくてスクワット。

「はいはい、もうほんっと先輩めんどくさいから。食べましょう、私はこっちの端から食べますから、京平先輩はそっちの端からお願いしますね。それと、運動やめた私に揚げものはダメージ大なんで京平先輩の担当ですから」

自分の目の前のお皿に残ったタルタルソースのたっぷり乗ったから揚げをトングで持ち上げて京平先輩の目の前のお皿に乗せると、トングからお箸に持ち替えた。

「はい、先輩も早くお箸持って!--食べますよ」

そうして、仕方なく静かな戦いを始めたーーーー




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