【ゆっくりかたむき】
【>>2】


あれから2週間と4日。
想像していたより早く午後の休みが取れた。
という訳ですぐさまあいつに連絡して、家にお邪魔することになった。

あいつ、こと峻が住んでいるのは案外高級なマンションである。
へえ。こういう所住む性格だったんだ。

首が痛むほど高いそのマンションを見上げる。


「りゅー、何やってんの。不審者だよ」
「…あのなぁ。もう少しまともな声掛けしてくれない?」


コンビニの袋を手に下げた峻が目をぱちくりさせながら俺を見上げている。

黒地のコートに暖かそうな赤いマフラー。
深緑のチェックのミニスカとタイツ。
寒さからか蒸気した頬に緩く掛かる黒い髪。
そして、ここまでやっておいてノーメイク。

全国の女子よ…この女を盛大に憎め。


え、誰だ今。
「女の子!?」って言ったやつ。
それ峻猛烈に怒るぞ。
まぁ名前も男っぽいし、俺の表現の仕方からしても男かと思うかもしれないけど。

こいつは正真正銘、女です。


「…失礼な事考えてたでしょ」
「いや、別に。」

視線が痛いのなんの。






「うわぁ……スゲーな、この部屋」
「コートそっちに掛けて、荷物も適当に置いておいて」
「おう」

マンションの外見を裏切らない内装の華やかさ。
感動に浸って周囲を見回す。

幸い俺はファンがストーカーとかして来てないから引っ越す必要も今の所ない。
だから一人暮らしする時に借りた普通のマンションで今も住み通している。
…だから元カノにも最初吃驚されたな。


「…あ。これ…」

ふと目に止まった、写真立て。それには見覚えがあった。
懐かしいな、そう思い思わず目を細める。

そこには峻と俺、峻の姉貴と俺の兄貴が映っていた。
幼馴染み四人の…18年前に撮った写真。
俺がまだこの時5歳で、峻は4歳だったはず。

…ちょっと思い出したくない苦い経験も詰まってる写真だ。


「懐かしいでしょ、それ」

いつの間にか隣にいた峻が微かに笑いながらそう言う。

「うん。まだぴっちぴちだ」
「親から強奪してきた」

峻はその発言だけ残してキッチンに行ってしまった。


峻の姉貴の『暦』さん。
俺の兄貴の『竜騎』。
…2人は俺から見ても明らか、両思いだった。

でも峻は、兄貴が好きだったんだ。



「りゅー、コップ取って」
「何処にあんの?」
「私の真後ろの棚、2つお願い」

峻の声掛けにハッと我に返ってキッチンに入る。


何も考えてなさそうな峻の横顔をチラリと見てから、俺は指示通り2つのコップを棚から取り出した。

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