極上御曹司に求愛されています

「じゃ、帰ろうか。でも、その前に」
 
悠生の手が腰に伸び、ぐっと抱き寄せられた。その途端、悠生は芹花にキスを落とした。

「……んっ」

突然のキスを、芹花は身動きできず素直に受け止める。
かすめるだけの軽いキスを何度か繰り返すと、悠生は芹花を抱きしめた。

「なあ、今からでもウェディングドレスの試着に……」
「行きません。今日は無理です」
 
せがむような悠生の言葉に、悠生はきっぱりとそう言った。
まだ諦めていないのかと呆れる中で、今のキスはいったいなんだったのかと考える。
この間のキスといい、訳が分からない。
それでも、二回目のキスは、戸惑いより嬉しさの方が大きく、自分の気持ちが変化していると教えてくれた。

「ウェディングドレス姿の写真、欲しいんだけど」
 
悠生は深い息をひとつ吐き出すと、芹花の肩に頭を埋めた。
甘えるような仕草がかわいいと思うが、試着をする気持ちにはなれない。
これ以上悠生と写真を撮るのは苦しいのだ。
悠生が善意で芹花に付き合って写真を撮ってくれるのはありがたいが、今日はこれ以上笑顔を浮かべる自信がない。

「ウェディングドレスの写真がなくても、綾子に送る写真はもう十分ですよ」
「は? どういうことだ? 写真を撮るためにここに連れて来たわけじゃ……」
「気を使わせてごめんなさい」
 
明るい声を意識するが、うまく言えたのかどうかわからない。
悠生からアマザンホテルに来たのは綾子に送る写真を撮るためだったかのように言われたことがショックだったのだ。
急用で来られなくなった友人の代わりだというのは嘘ではないだろうが、写真を撮るには絶好の機会だと思ったのも事実だろう。
芹花は悠生と過ごすうちに、責任感が強く優しい人だと知った。
スマホの代金を必要以上に気にかけていることがその証拠だ。
芹花の事情を聞いて、芹花と恋人同士の振りをして写真を撮ることにも嫌な顔ひとつせず付き合う。
それどころか、自ら積極的に場所を考え最適な写真を撮る。



< 126 / 262 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop