極上御曹司に求愛されています
けれど、このイラスト集の発売が決まって以来、事務所の中での居場所を見つけられたように感じている。
法律で依頼者の悩みを解決することはできなくても、悩みを抱えているひとが弁護士という味方を知るきっかけを作ることはできているかもしれない。
芹花はイラスト集の裏表紙を見つめた。
そこには、『月』で初めて黒板メニューに描いた絵があった。
丁寧に描かれたそれは、鬼の絵だ。
二月といえば節分だなと、張り切って描いた芹花の渾身の力作で、リアルすぎてカフェの入り口で泣き出す子供がいたほどだ。
赤鬼の目はなにもかもを見透かすような厳しい光を放っていて、なかなかの出来映え。
今よりも粗削りでチョークのタッチも不安定だが、芹花にとっては思い出深い絵だ。
表紙は描きおろしの色鉛筆の絵だが、裏表紙をどうするかと出版社の人に聞かれた時、この鬼の絵にしたいと即答した。
星野もとても気に入ってくれたこの絵を、絶対に裏表紙にしたかったのだ。
就職も決まらず、将来に不安だらけだった芹花を笑顔で励まし、おいしい食事を出してくれるだけでなく、唯一得意だと言える絵を描かせてくれた恩人。
星野に黒板メニューを描かせてもらわなければ今こうしてイラスト集を手にするどころか就職できず右往左往していたはずだ。