『The story of……』

しばらくは、静まり返った部屋にキーボードを叩いていく男だけが響いていた。




このまま作業が終わってくれれば良い。

そう思った時だった。



「ぃっ……」



隣から聞こえた声に、反射的に十二谷くんの方に顔を向ける。



俯いた彼は頻りに右目を指先でいじっているようだった。



「どうしたの?」



見て見ぬ振りも出来ず、立ち上がって歩み寄った彼は、



「……放っとけば良いのに、お人好し」


「ぇ……っ!」



濃い灰色をした右目で、わたしを見上げていた。



驚きで目を見開いたまま立ち尽くすわたしに、



「髪の毛も目も、黒で隠してる。ホントは赤毛で灰色の目をした半端者だよ」



黒のコンタクトを器用に右目に戻しながら、淡々と語っていく。



「そのせいで小さい時は誰にも相手にされなかったんだ。……瑠戌以外は」



再びわたしを見上げる瞳は、いつも通りの十二谷くんで、



「ずっと瑠戌が助けてくれてた。だから俺も、瑠戌の役に立とうって決めて」



福士くんのことを話すその表情は、初めて会った時にフォローを入れていた顔と同じに見えた。
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