触れられないけど、いいですか?
「それに、もし父さんがさくらの男性恐怖症のことを知ったとしても、何も影響ないと思うよ。寧ろ、心配してくれるよ」

なんてことない様子でハンドルを操作しながら、やはりなんてことない口調で翔君はそう言う。


「そう……かな?」

「そうだよ。俺が言うのもなんだけど、父さんは優しいからね。俺がさくらとお見合いしたいっていう希望も聞いてくれたくらいだ、俺達の結婚に今更反対したりしないよ」


翔君のその言葉に私は、うーん……と曖昧な返事をしてしまったものの、でも内心、それもそうかもしれない、と思ってしまった。


翔君のお父様とは、翔君同様、先日のお見合いで初めて知り合ったばかり。その後もまだ数回しか顔を合わせたことはない。
だけど彼のお父様はいつもにこにこしていて、機嫌がわるいところどころか、疲れていそうな雰囲気すら私に見せたことはなく、様々な場面で常に私のことを気遣ってくれている。

そうなると、確かに翔君の言う通り、そこまで心配しなくてもいいのかもしれない……と感じた。


「お茶でもしに行こうか。さくら、何か食べたいものある?」

「じゃあ……ケーキ」

「分かった。じゃあ、とびきり美味しいケーキを食べに行こう」

冗談っぽくそう言って、彼は車を走らせ続ける。


優香さんのこととか……不安なことはあるけれど、考え過ぎるのも良くないかもしれない。
翔君の優しいお父様のことを疑うようなことも、やめた方がいいよね。

自分にそう言い聞かせて、ひとまずは暗い考えを頭の中から払拭し、純粋にデートを楽しむことにした。
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